第156話

 1月1日になった。

 携帯をチェックすると、アキラから、あけましておめでとう、のスタンプが届いている。


 ワクワクする。

 今年も一年、アキラと一緒か。

 早く顔を合わせて、手をつないで、おしゃべりしたいな。


 リビングのところで母親とすれ違った。


「あら? どこかへ出かけるの?」

「15分くらい散歩してくる」

「忘れないうちに、はい、これ」


 ポチ袋に入ったお年玉をもらう。

 10,000円なり。


「リョウにお年玉をあげられるのも、あと何回かしら」

「俺はいつでもウェルカムだよ」

「調子いいんだから」


 くつに足を通して、正月の街に繰り出してみた。


 駅前のあたりがガランとしている。

 行きつけの本屋、今日は休みのようだ。


 あちこちに見える謹賀新年の4文字。

 ここまで人が少ないと世界の時間が止まったみたい。


 アキラのマンションを見上げた。

 リョウからメッセージを送ると、窓が一つ開いて、パジャマ姿の女の子が顔をのぞかせる。


 ぶんぶん。

 向こうから手を振ってきたので、リョウも振り返しておいた。


『さっき起きたところ』


初詣はつもうでいけそう?』


『うぅ……がんばって準備します』


 眠そうだな、おい。

 やっぱり夜更かししたのか。


『無理すんなよ』


『60分ください。がんばってお化粧します。初詣が終わったら、リョウくんの家にいくから、気合いを入れねば』


 アキラならどんな服装でもかわいいと思うけれども。

 仕方ない、帰ってマンガの続きでも描こう。


 WEB連載している4コマを1話アップしておいた。

 あけましておめでとうございます、と作者メッセージを残しておく。


 そうだ。

 氷室さんにも年賀メッセージを送っておこう。

 緊張しながら送信ボタンを押すと、2分後に長文メッセージが返ってきて、


『今年をカナタ先生にとっての飛躍ひやくの年にしよう』


 と書かれていたので、泣くほど嬉しかった。


 いい人だな。

 ちゃんと期待に応えないと。


 そんなことをやっているうちに60分が経ったので、アキラを迎えにいってみた。


「やあやあ、リョウくん、今年もいっぱい思い出をつくろうではないか」

「ノリノリだな」


 今日のアキラは美少女バージョン。

 知り合いに会っても平気なようウィッグを着用している。


「リョウくんの服装、寒くない?」

「アキラのマフラーがあるから大丈夫」

「むふふ〜、そういってもらえると編んだ甲斐かいがありますな〜」


 ほらよ、と手を差し出した。

 アキラが握ってくる。


「なんで胸ってドキドキするんだろうね」

「血流を増やしたいんじゃないか。脳みそに酸素を送ってやるから、判断ミスするな、みたいな」

「あ、なるほど、リョウくんの頭、冴えてるね」

「起き抜けに散歩してマンガを描いたからな」


 近くのコンビニに立ち寄った。

 客は誰もおらず、店内はガランとしている。


「肉まん、温まっていますか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「じゃあ、一個ください」


 ホカホカの肉まんをアキラと半分こした。


「今年の初コンビニ! 初肉まん!」

「何でも新しいな」

「初リョウくん!」


 アキラがギュッと抱きついてくる。

 リョウは、はいはい、といって頭をナデナデした。


「初頭ナデナデ!」

「元気だな」


 電車にのって、隣街の神社へ向かう。

 この地域だと有名な神社だから、すでに長蛇の列ができていた。


「リョウくんは何をお願いする?」

「う〜ん、マンガかな」

「じゃあ、僕はリョウくんの学業をお願いしよう」

「待て待て、それだと俺の願いが2個になる」

「ダメなの?」


 知らないけれども。

 普通は自分のために願うのではないか。


「アキラは自分のことを願うべきだ」

「むむむ……僕のお願いか……」

「ないの?」

「特にないから、リョウくんと一緒にいられますように、てお願いしておこう」

「おい、かわいすぎるだろう、ますますれるわ」

「あとは、世界中のニャンコの平和だね」


 リョウたちの番が近づいてきたとき。

 知った顔が真横にあったので、あっ、と声が出る。


「キング」

「なんだ、宗像か」


 隣にはユズリハもいる。

 高校生になっても兄妹で初詣って、メチャクチャ仲良いな。


「あけましておめでとうございます、宗像先輩」

「今年もよろしくね、ユズリハさん」

「あの〜」


 そちらの女性はどなたでしょうか?

 視線をチラチラ向けてきたので、レンタル彼女のふぅ子さんです、と紹介しておいた。


「なんと⁉︎ 不破先輩という美人のパートナーがおりながら、一人だけでは飽き足らず、レンタル彼女にまで手を出しているのですか⁉︎」

「あのね、アキラはいちおう男の子だからね」


 神社でバッタリ会うなんて世間は狭いな、と思うリョウであった。

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