第157話

 おまいりが終わったあと、冷えた体を温めるため、カフェに立ち寄った。


 アキラとユズリハの二人を席に残して、リョウとミタケが飲み物を注文しにいく。


「どうする、キング。ホットコーヒー4つでいいか」

「いや、待て。俺もユズリハもコーヒーのカフェインが苦手なんだ」

「見かけによらず、かわいい体質しているな」

「うるせぇ」


 ホットコーヒーを2つ、ホットココアを2つ注文する。

 待つあいだ、リョウには、どうしても確認しておきたいことがあった。


「おい、雪染さんを誘わなかったのかよ」

「誘っていない」

「どうして? 学園祭のとき、良い感じだっただろう」

「そりゃ……まあ……」

「クリスマスも進展はないのか?」

「おう」

「キングって意外と奥手だな。いや、軽薄よりはマシだけれども」

「正月にレンタル彼女を利用しているやつにいわれたくない」

「たしかに、おっしゃる通りで」


 ユズリハの笑い声が響いた。

 アキラと打ち解けた様子の妹を見て、ミタケはどこかほっとした表情になる。


「俺の家、父子家庭なんだ。親が仕事で忙しいから、俺が家族らしいことをしてやらないと、ユズリハが独りぼっちになるだろう」

「えっ……それで雪染さんを誘わなかったの?」

「理由の一つではある」

「アホか」


 リョウは左手でツッコミを入れた。


「3人で初詣したらいいのに。妹ちゃんだって、雪染さんになついているんだから」

「しかし、それだとユズリハに気をつかわせることになる」

「バーカ。自分に遠慮して、女の子を誘わなかったと知ったら、そっちの方が傷つくよ」

「なるほど。宗像って、時々、人の心に詳しいな」

「いちおう毎日マンガを描いているのでね」


 出てきたドリンクをトレーにのせる。


「どうせキングのことだ。フラれるのが怖いとか、微塵みじんも心配しちゃいないのだろう。だったら、さっさと決めろよ。恋のスリーポイントシュート」

「うわっ! くさっ! 宗像くさっ! 新年早々くさっ!」

「うるせえ……」


 マンガ脳あるあるだな。

 変なセリフを思いついて、うっかり自爆しちゃうの。


「どうしたのですか、リョウ。お顔が赤いですよ」

「なんでもないです……」


 アキラが心配してくれたけれども、リョウは顔をそらした。


「ねえねえ、ふぅ子さんは将来、どんな仕事につきたいとか、希望はあるのですか?」


 ユズリハが手を挙げながら質問する。


「そうですね、人を元気にする仕事がいいです」

「人を元気に? 看護師とかセラピストですか?」

「そうじゃなくて、芸を磨いて、お客さんに楽しんでいただけるお仕事です」

「なるほど、ユーチューバーみたいな」

「それも選択肢の一つですかね」


 いや、違うと思うけれども。


「ふぅ子さんは華があるからいいな〜。美人オーラ全開みたいな」

「おめいただき、ありがとうございます。そういうユズリハさんも、人好きのする笑顔の持ち主ですよ」

「えっ⁉︎ 本当ですか⁉︎」

「もちろん」

「あわわっ⁉︎」


 アキラが聖母みたいに微笑む。

 一撃でユズリハをメロメロにするなんて、安定の性格美人といえよう。


「うちの学校に不破先輩という方がいるのですよ」

「名前はうかがっています。たしか、リョウの友だちの」

「すごいイケメンなんです! 見た目もそうですが、性格が特に! 女の子が一番ほしいセリフを、スパッと口にするのです! とても優しくてフレンドリーな反面、いつもは静かに本を読んでいて、たまに髪の毛をいじくる姿が最高に色っぽくて……」


 妹によるアキラ自慢を、ミタケはつまらなそうに聞いている。


「ユズリハさんは、不破先輩に恋しているのですか?」

「ええと……そうじゃなくて……」


 ユズリハはマグカップに触れて、あちち、と手を引っ込めた。


「私もこんな人になりたいな、みたいな。憧れ……なんです。あれ? 何いってんだろう? 不破先輩は男の人なのに……。あっ⁉︎ でも、学園祭の女装コンテストがあって、もちろん不破先輩が優勝して、その姿はとても美人でした! 呼吸するのも忘れちゃうくらい! 本当に美人だったのです! まるで天使が舞い降りてきた、みたいな!」

「その話、もっと聞かせてください」

「えぇ……恥ずかしいなぁ……」


 ふぅ子さんの中身がアキラだと知らないユズリハは、この後、30分くらい、『憧れの先輩トーク』を当の本人に向かって垂れ流すハメになった。


 この人たらしめ……。

 リョウは苦いコーヒーをじゅるりと飲んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る