第139話

「できた〜」

「パチパチ〜」


 学園祭開始15分前になったとき、ようやく屋台のセッティングが終わった。


 メニューはウインナー串、豚キャベツ、チーズハンバーグの3種類。

 リョウがイラストを描いて、値段の紙と一緒に並べている。


「それじゃ、さっそく焼いてみようぜ!」

「あっ! 男子が勝手に!」

「でも、自分たちが試食していないものを、お客さんに出すわけにはいかないだろう」


 クラスメイトが調理しはじめる。

 試食しなくても、味のクオリティは保証されているはずだが……。


「ほら、宗像も食ってみろよ」


 ウインナーを一本もらった。

 焼きたてだから、普通にうまい。


「今日は寒いし、飛ぶように売れるな」

「だろう。値段を強気に設定してもいいくらいだ」


 キョウカが電卓を叩きながらニヤニヤしている。

 それを背後からのぞき込むのはアキラ。


「利益、出そう?」

「食材が全部売れたら、すごい利益だよ。人件費0円というのは偉大だね」

「でも、もうけはすべて学園に持っていかれるんだよね」

「うん、来年度の学園祭の予算になるんだ」


 そうなんだ。

 てっきり、赤字になって、学園側が補填ほてんしているのかと思ったが。

 キョウカいわく、一般客がまあまあ遊びにくるから、よっぽど天気が荒れない限り、全体としては黒字らしい。


「神楽坂は学園のシステムに詳しいな」


 ミタケの発言にキョウカはビクッとなる。


「生徒会の人がそういっていたな〜」

「へぇ〜、生徒会に知り合いとかいるんだ」

「にゃはは……」


 リョウは隠れて笑った。

 キョウカのボロの出し方も、アキラに負けず劣らず、て感じでおもしろい。


「お客さん、入りはじめたよ〜!」


 アンナの一声を受けて、みんなが持ち場につく。


 ドキドキ。

 お客さんの第一号はどんな人だろうか。


「やっほ〜。元気にしてる〜?」


 最初にやってきたのは女子大生のグループ。

 昨年度に卒業した先輩で、ミタケに会いにきたらしい。


「聞いたよ、キング。修学旅行で暴力沙汰を起こしたんだってね」

「いや……あれは本当にトラブルっていうか……」

「気づいたときには相手が血まみれでした、てか。やんちゃだな〜。でも、次やったら、退学ものだから、気をつけなよ。あんたがいないと、男子バスケ、一気に弱くなるし」

「はい、なんかスミマセン。あ、それで、ご注文は?」

「そうだね〜」


 いきなり1,000円のお買い上げ。

 部活のコネってすごいな。


「さっきの女の人、美人じゃん! 誰なの⁉︎」

「女子バスケ部のOGだよ」

「くそっ! いいな、キングは〜」

「いやいや、意味がわからん」


 それから吹奏楽部のOBとOGがやってきた。

 アンナとの会話に花を咲かせている。


「卒業後も吹奏楽を続けたいなら、うちの大学にきなよ。サークル、メッチャ楽しいよ」

「え〜、私の学力だと、ちょっと心配ですよ」

「雪ちゃんなら大丈夫。まだ受験まで1年以上あるんだし」


 アンナも先輩から愛されているのか。

 いいよな、フレンドリーな上下関係って。


「それじゃ、俺は豚キャベツもらおうかな」

「あ、私も野菜にしとこ」


 また1,000円のお買い上げ。


「塩ダレで味付けしているのか」

「うわっ⁉︎ 普通においしい!」

「あとで雪ちゃんの演奏、聴きにいくから」

「はい! がんばります!」


 やった!

 また売れたよ!

 クラスメイト同士でハイタッチを交わす。


「須王くんの先輩、いい人たちだね」

「雪染さんの先輩もな」

「うん! 優しい人なんだ〜!」


 アンナとミタケも仲良くタッチ。


 それから小さい男の子と女の子がやってきた。

 指をくわえて、じぃ〜っとお肉を見つめていたので、


「試食してみる?」


 アキラが爪楊枝つまようじに刺したウインナーをプレゼントする。


「やった〜!」

「おいしい〜!」


 喜ぶちびっ子たち。


「君たち、今日はどこから来たの?」

「近く!」

「うん、近くに住んでるの!」

「じゃあ、歩いてきたんだ?」

「うん!」

「そうだよ!」


 すると子どもたちのお母さんが走ってきた。


「ねえねえ、ママ」

「ここのお肉、おいしいよ」

「もっと食べたい」

「買って〜」


 けっきょく600円のお買い上げ。

 やるな、アキラ。


「リョウくん、こういうのを、得たくばまず与えよ、ていうんだよ」

「久しぶりの策士だな」


 お店が順調に回ってきたとき、近くの屋台が急にザワザワしはじめたのだ。


 もしかして、有名人かユーチューバーでも遊びにきたのかな?

 女子たちがキャーキャーいっているし。


「なんだ、なんだ」

「タレントか? うちの卒業生、けっこう活躍している人が多いし」


 この雰囲気……。

 なんか覚えがあると思ったら……。


「あの人、ヤバいくらい格好いい!」


 そんな女子の悲鳴がしたとき、アキラがサッと屋台の中に隠れてしまった。


 ロックバンドみたいな5人組が歩いている。

 みんな格好いいけれども、真ん中の一人がとんでもない男前オーラを放っている。


「へぇ〜、ここにトオルさんの親戚がいるんすか〜?」

「まあね」


 リョウと目があった。

 トオルが屋台の中をのぞき込む。


「お、いたいた、隠れてんじゃねえよ」

「うっ……何しにきたの?」

「冷やかし」

「アホ〜!」


 アキラとトオルの会話に、近くにいた女子がパニックを起こす。


「えっ⁉︎ どういう関係⁉︎」

「もしかして兄弟⁉︎」

「いや、親戚のおじちゃん。お年玉をくれる人」

「おいおい、おじちゃんはねえだろう。お兄さんと呼べ。じゃねえと、来年のお年玉、あげねえぞ」

「あのねぇ……」


 トオルの大きな手が、アキラの頭をナデナデした。

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