第213話

「にゃ〜♪ にゃ〜♪ にゃにゃにゃ〜♪」


 アキラの猫化が止まらなくなった。

 ニャンコになりたい願望が顕在化けんざいかしたのだろうか。

 さっきから一心不乱にカーテンをペチペチ叩いて遊んでいる。


「にゃ〜〜〜ん!」


 それからベッドに飛び移り、マタタビをもらった猫みたいに、うっとり微笑んでいる。


「にゃ〜ん! そこは弱点だにゃ〜!」

「なにやってんの?」

「ご主人様に愛撫あいぶしてもらうニャンコの演技だにゃ〜!」


 楽しそうだな、おい。


 アキラは布団の上をコロコロした。

 巻き寿司の具みたいに真ん中のところでもがいている。


「動けないにゃ〜!」

「ひとり拘束プレイ?」

「ご主人様にお仕置きされたにゃ〜!」

「ああ、反省タイムね」


 かわいい。

 この状態のアキラを襲ったら、やりたい放題できそう。


「あれ⁉︎ おい⁉︎ この⁉︎」

「次はどうしたんだ?」

「元に戻らなくなっちゃった……」


 これ、学校で習ったやつだ。

 自縄自縛といって、みずから動けなくする技のこと。


「逆回転させたら戻るんじゃないの?」

「さっきからトライしているけれども、無理っぽい。というか、ベッドから落ちそう」

「やれやれ」


 仕方ないので、真ん中に戻してあげた。

 俎上そじょうこいみたく、アキラはしょぼくれた顔つきをしている。


「リョウくん、助けてほしいにゃ〜」

「いやだ」

「秒で断られたにゃ〜」

「ロールケーキみたいなアキラの方がかわいい」

「うぅ〜にゃ〜」


 リョウはマンガの続きに戻った。

 アキラの鼻歌をBGM代わりに、描きかけのページを仕上げていく。


「このままだと、そう遠くない将来、僕はおしっこを漏らすにゃ〜」

「その手には引っかからないぞ」

「にゃにゃにゃ⁉︎ リョウくんは寝床がずぶ濡れになってもいいのか⁉︎」

「アキラなら許す」

「こいつ!」


 アキラが、ぐぬ〜! とか、にぎぃ〜! とか気張っている。

 布団が水草みたいに絡まっているらしい。


「拘束が外れない……」

「諦めろ、アキラ。あとでたっぷり足の裏をこちょこちょしてやる」

「やめて、やめて。それをされたら死ぬにゃ〜」

「見逃してほしいの?」

「お願いしますにゃ」


 どうしよっかな〜、とリョウは腕組みした。

 こんな特大チャンス、久しぶりかもしれない。


「今日の下着の色、教えてくれたら解放してやろう」

「くっ……この男、卑劣にゃ〜」

「じゃないと、お前は一生そのままだ」

「ッ……⁉︎」


 アキラはぷいっと視線を逸らした。

 もしかして怒った?


「そんなに知りたきゃ、自分の目で確かめたらいいだろう」

「えっ、見ていいの?」

「見るだけだぞ。おかしな部分に触るなよ」


 これはドキドキする。

 そもそも、アキラの下着なんて、数回しか見たことないし、そりゃパンツ見せてとお願いしたら、仕方ないな〜、と渋々見せてくれたりするが、あれはマンガのためという立派な口実があって……て、なに考えてんだ。


 アキラが恥をしのんで、おパンツOKしてくれたのだ。

 さっとチェックして、さっと解放してあげよう。


「ではでは、この中を拝見させていただきます」

「とても情けない。まるで産婦人科へやってきた気分なのだよ」

「おい、ムードが台無しだな」


 布団をはがして、スカートをわずかにめくった。

 きれいな白パンツだった。


「何色だった?」

「白ニャンコだな」

「そうか、そうか、今日は白の日か」


 アキラが赤ちゃんみたいに足をパタパタする。


「こんなので男の子って喜ぶの?」

「メチャクチャ嬉しい」

「くっくっく……単純な生き物よのぅ〜」

「そうだよ。バカに生きた方が楽しいんだよ」


 アキラはすっくと立ち上がった。

 スカートをひらひら揺らして、リョウのことを誘惑してくる。


「やめろ、気になる」

「ぷっぷっぷ。リョウくん、正直者だ」

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