第127話

 これって、三角関係なのか。

 ミタケ ⇨ アンナ ⇨ アキラ みたいな。


 アンナの意中の人が誰なのか。

 そもそも意中の相手がいるのか。


 真実は本人しか知らないが、クラスメイトにアンケートを取ったら、不破アキラ&雪染アンナがお似合い、て意見がトップになると思う。


「僕が雪染さんと付き合わないのは……」


 アキラは3秒くらい考えたあと、


「なんでだろうね?」


 すっとぼけて誤魔化した。

 そりゃね、自分は女だから、とはいえないし。


「なんだよ、もし雪染さんから告白されたら、不破はOKするのかよ」

「もちろん、真剣に考えるよ。でも、僕と雪染さんが付き合うことはないと、断言しておく」

「どうして?」

「僕には資格がないから」

「はぁ?」

「いい友だちにはなれても、雪染さんの恋人にはなれない。理由はうまく表現できないけれども。雪染さんに僕は相応しくないんだ。好きとか、嫌いとか、それとは別次元の話なんだ」

「よくわからんが……」


 ミタケは頭をポリポリしながら席を立った。


「なんか、不破もいろいろと複雑な問題を抱えているんだな。俺は頭がよくないから、まったく想像できんが……。もしかして、病気か? 実は、みんなが思っているより深刻なのか? 余命が数年しか残されていないとか?」

「そこまでシリアスな問題じゃないよ」

「そうかよ。今日は邪魔したな」


 借りができた。

 いつか返すから、不破も俺を頼ってくれ。

 ミタケはそう言い残してから去っていった。


 アキラは読書を再開するけれども、すぐに本を伏せてしまう。


『なんで不破は、雪染さんと付き合わないんだよ』


 あの質問の答えを探しているのかもしれない。


「これ、究極の質問なんだけれども……もし、僕が純正のメンズだとして、リョウくんは僕と恋人になれる?」

「それって、男のアキラが俺のことを好きってこと?」

「うん、リョウくんが望むなら、性転換手術を受けてもいいくらい好き」


 日本だと法律の問題にぶち当たるけれども……。

 男性から女性に性転換手術した人が、赤ちゃんを妊娠するのは、生物学的に可能っぽい。

 少なくとも、フィクションのネタとして採用するレベルには現実的らしい。

 リスクが付きまとう話だから、あまり想像したくないのだが。


「マジで究極の質問だな」

「たぶん、同じことがいえるんだ。もし、僕が雪染さんと恋人になりたいなら、性別を変えればいいよね、て話。まあ、21世紀だから、女性同士のカップルなんて、珍しくないのかもしれないけれども」

「俺も小難しいことはわからんが……」


 BLとか、GLとか。

 そもそも性別って、なんだろうな。


「仮にアキラが本物の男だとするだろう。俺の人生があと70年くらいあるとして、アキラより素敵なレディと恋に落ちるか、て訊かれたら、NOという気がする」

「へぇ〜、そうなんだ」

「あと、アキラが他の男と結ばれるのは嫌だな。そんなゲイカップルが誕生するくらいなら、友だちでいいから、俺の側にいてほしい」

「リョウくんの考えって、謎の説得力があるから、おもしろいかも」

「お互いさまだろう」


 リョウくんは僕の自慢なんだ、てアキラがいってくれたとき、嬉しくて胸が温かくなった。

 だから、リョウも言葉にしておかないと。


「アキラは俺の自慢なんだ。いまは友だちか恋人か、曖昧あいまいな状態だけれども。この自慢っていう気持ちはブレない。何があっても絶対にブレない」

「リョウくん……」

「ムダに悩むなよ。上から目線で申し訳ないけれども、悩む必要なんてないよ」

「うぅ〜」


 アキラが頬を赤らめる。

 リョウは何事もなかったかのようにマンガの続きを描きはじめた。


「リョウくんって、性に対してフランクだよね」

「そうだな。いつかアキラと雪染さんをモデルにしたGLマンガを描きたいな」

「ばかちん!」

「もしかして、神楽坂さんの方がよかった? 現在進行形でゆる〜いGLみたいになっているし」

「それは神楽坂さんが、よく僕に意地悪してくるから!」


 つまり、相性がいいってことか。

 同盟関係を知るリョウとしては、学校で二人を観察するのが、ひそかな楽しみだったりする。


 部活を終えて、帰ろうとしたとき。


 職員室の近くでトモエ理事長に呼び止められた。

 インテリな眼鏡とエレガントなスーツが今日もうつくしい。


「不破くん、ちょっとよろしいかしら」

「はい、なんでしょうか」

「以前にもお話ししたのだけれども……」


 学園のパンフレットを刷新する、というやつ。

 どうやら、理事会でも議題にあがって、男子生徒はアキラを、女子生徒はアンナを起用しよう、という話になったそうだ。


「強制ではないけれども。バイト感覚で協力してくれないかしら。謝礼として、図書カードを渡すのが通例になっているわ」

「撮影って、いつですか?」

「早ければ今週末かしら」


 寝耳に水って感じだな。


「不破くんが辞退するのなら、別の男子生徒に声をかけるから」

「それって、つまり、雪染さんはOKしたということですか?」

「前向きに考えておく、と神楽坂キョウカ経由で返答がありました」


 アキラが、う〜ん、と考え込む。


「不破くんと一緒に写った方が、雪染さんも嬉しいでしょうね」


 トモエ理事長は正論でゴリ押ししてきた。

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