第160話

「それで? アキラはどこへ遊びにいきたい?」

「よくぞいてくれました!」


 アキラがハイハイと手を挙げる。


「どうしてもこの冬休みにやっておきたいことがあるのです。雪染さんと須王くんの仲を取り持つのです!」

「なっ⁉︎」

「カップル誕生の瞬間に僕たちが立ち会うんだよ!」

「無茶すぎるだろう」


 一体、どうやって?

 デートでも企画するの?

 そもそもカップルって、他人がコントロールして、成立しちゃうものだっけ?


「僕たちなら、できる。あと、これはリョウくんのためでもある。あの2人を観察していたら、マンガのアイディアが閃くかもしれない。これは人間観察のいい機会なんだ」

「とんでもない発想だな」


 アキラは紙とペンを用意して、大まかなプランを書き出していく。


「場所は、そうだな、動物園あたりにしよう。僕から2人を誘ってみるよ」

「つまり、当日集まるのは、俺に、アキラに、キングに、雪染さんの4人ね。男3女1の構図か」


 アキラがチッチッチと指を振る。


「ここからが作戦のミソなのですが、当日、僕は風邪を引いて欠席します」

「おい……」

「代わりにふぅ子さんがやってきます」

「おいおい!」


 無理やり男2女2に持ち込むわけか。


「ふぅ子さんはレンタル彼女だから、リョウくんとカップルだろう。すると必然、雪染さんと須王くんの会話が増えるだろう。2対2の別行動になっても、不自然はないだろう」

「つまり、俺たちはカップルのふりして、あの2人をコソコソと見守るわけね」

「そう、それ! 2人の仲が進展するよう誘導する!」


 アキラは紙に恋のキューピッドを描いた。


「恋愛マスターの僕がいるからね! 恋が成就する確率は100%で間違いなしなのです!」

「おいおい、恋愛マスターて……」


 大丈夫かな。

 リョウとしては、ふぅ子さんの中身がアキラだとバレないか心配なのだが。


「というわけで、さっそく2人の予定をおさえます。ちなみに、リョウくんは都合が悪い日とかある?」

「いつでもOKだ。……ちょっと待て、ユズリハさんはどうする? 兄貴についてこないか?」

「僕から根回しして、その日は須王くんに同行しないよう、お願いしておきます。同じく神楽坂さんにも欠席してもらいます」

「なるほど、ね」


 さっそくメッセージをつくるアキラ。


『動物園で新春イベントをやっているので、みんなで一緒にいきませんか? その後、軽く食事して、ちょっと買い物する流れを想定しています。メンバーは僕、リョウくん、神楽坂さん、雪染さん、須王くん、ユズリハさんの6人を想定しています。都合のいい日を教えてください。4人以上集まるようなら催行さいこうしようと思います。候補日は……』


 ポチッと送信。


「ドキドキ……早く返信こないかな」


 とりあえずリョウが一番に返信しておいた。


『俺はいつでもいいぜ』


 するとキョウカからも返信がくる。


『ごめ〜ん! 家の用事で手一杯かも……。みんなで楽しんできて』


 あとはアンナ、ミタケ、ユズリハか。

 既読アイコンがついているから、メッセージには気づいているはず。


「……」

「…………」

「なかなか返事がこないな」

「むむむ……」


 アキラが動物園のクマみたいに部屋をウロウロする。


 ピコン!

 きた、アンナからだ。

 アキラが携帯に飛びつく。


『東京の動物園、久しぶりかも。楽しみにしています』


 立て続けにミタケからも連絡がくる。


『すまん、ユズリハの体調が急に悪くなっちゃって……。当日は俺だけでもいいか? あと、ユズリハの体調次第では、俺は早めに帰ることになるかもしれない』


 ほんと、妹中心主義だな。


「よしっ! 雪染さんと須王くんを引っ張り出すことに成功しました!」

「やるな、アキラ」


 とりあえずハイタッチ。


「当日に向けて、いろんなシナリオを考えねば」

「はぁ? シナリオ?」

「雪染さんと須王くんがドキドキできるよう、小技を100個くらい用意しておくのです。仮病をつかってくれたユズリハさんのためにも、何としても成果を残すのです。ほらほら、リョウくんも一緒にアイディアを考えて」

「仕方ないな」


 本棚にあるラブコメを引っ張り出した。

 役に立つかと思いきや……。


「マンガのアイディアを現実に応用するの、けっこう難しそうだな。都合よく雨が降ったり、暴漢ぼうかんが登場するわけないし」

「そこは自分の頭で考えるべし!」

「はいはい」


 アキラの頭の中では、ラブストーリーが完成しているらしく、夢中になってペンを走らせていた。

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