第十章 冬休み

第149話

「ボランティア活動?」

「そうそう、毎月1回のペースで開催していて、僕も都合がつけば参加しているのだけれども。けっこう楽しいよ。みんなで合唱やったり、そうめん流しやったり、夏祭りやったり……。今回はサナエちゃんの学校の女の子と一緒に、クリスマスキャロルの演劇をやるんだ」


 サナエちゃん?

 ああ、アキラの昔の同級生か。


「あとね、クリスマスだから、プレゼントを持っていきたいんだよ。リョウくん、いらない雑誌とかマンガ本とか、持ってきて。数冊でいいから」

「でも、俺が飛び入り参加しちゃっていいのか? よそ者みたいだし」

「いつも女子ばかりだから。男子がくると歓迎されると思う」


 というわけで、リョウもボランティア活動に参加することになった。


 行き先はこの街の障がい者支援施設。

 メチャクチャ緊張する、何やったらいいかピンとこないし。


「もしかして、食事や排泄はいせつのお手伝いをするのか?」

「そこまで本格的じゃない」


 アキラいわく、会話の相手になっなり、一緒に遊ぶのがメインらしい。


 なんか難しそう。

 初めてのリョウでも大丈夫かな。


「リョウくんも一緒にきてほしい。強制はしないけれども」

「やれやれ、断れないな」


 そしてクリスマスの朝。

 父と母と3人で、近くのカフェのモーニングを食べにいった。


「リョウは1日お出かけか?」

「まあね」

「アキラちゃんと?」

「2人きりじゃないよ。集団で出かける予定」

「プレゼントをもらえるといいわね」

「あのね……」


 両親は繁華街まで出かけるそうだ。

 ある意味クリスマスデートだから、母なんか、1週間前からソワソワしている。


「夜はリョウも一緒に食べる?」

「いいよ、2人で楽しんできなよ」


 リョウはコーヒーの残りを飲み干した。


 アキラとの待ち合わせまで時間がある。

 いったん家に帰り、マンガの続きを描いた。


 今日から2週間の冬休み。

 勝負の年末年始だな。


 受験のプレッシャーが増える前に、少しでも自分のレベルを底上げしないと。


 描いて、描いて、描きまくろう。

 ちょくちょくアキラとデートしよう。

 可能なら一緒に初詣はつもうでにいって、充実した1年になりますように、て祈っておきたい。


 ふと、折田ジューゴのセリフを思い出した。

『異性と遊んでいるようなマンガ家志望は、二流か三流止まり』というやつ。


 一理あるな。

 リョウがアキラと出かけているとき、ジューゴはマンガを描いているわけだし。


 いやいや、マンガなんて、量より質じゃないか。

 生きている時間の濃度が、作品の良さを決めるはず。


 ジューゴは間違っている。

 リョウがそれを証明してやる。


 アキラからメッセージがきた。

 パンパン! と頬っぺたを叩いてから家を出る。


「やっほ〜、宗像くん、お久しぶり〜」


 サナエたちと合流した。

 向こうの学校の演劇部員が7名おり、小道具とか衣装のでっかい袋を提げている。


「おい、アキラ」


 リョウはひじでちょんちょんする。


「なんで、お前、男の格好しているんだよ」

「だって、仕方ないだろう。サナエちゃん以外には秘密なんだ。高校生のコミュニティは意外と狭いから、知り合いの知り合いがいたら、一発でアウトだし」


 ぐぬぬ……。

 せっかくのクリスマスなのに男装アキラか。

 いや、会えないより100倍マシだけれども。


「不破くん、久しぶり!」

「今日も1日よろしくね!」

「冬なのにお肌がきれいだね! どうやってるの⁉︎」


 相変わらずモテモテなんだよな。


「ほら、バスがきたよ!」


 サナエがぶんぶんと手を振って、みんなをバスへ誘導した。


「宗像くんって、不破くんと家が近いの?」

「そうだよ」

「マンガを描いているって本当?」

「まあね。部活の時間はずっと描いている」

「へぇ〜、すごい、読んでみたいな〜。出版社とか、入ったことあるの?」

「いちおうね」


 そんな会話をしながら施設へ向かった。


 さっそく演劇の準備に取りかかるメンバーたち。

 リョウも折りたたみ椅子のセッティングを手伝った。


 演目はクリスマスキャロル。

 もっとも有名なクリスマス劇の一つだから、誰しも一度は触れたことがあるのではないだろうか。


 スクルージという意地悪なおじいさんがいて、幽霊と出会って、過去、現在、未来をトリップして、改心する、というストーリー。


 今日の台本はアキラが書いたらしい。

 あとナレーションを担当する。


「実は、この劇を見てほしくて、今日はリョウくんを誘ったんだ」


 サンタ帽子をかぶったアキラが寄ってきた。

 かわいいな、男装のくせに。


「声のコンディションは大丈夫なのか?」

「うむ、問題ないのです」


 それからアキラは、あっ、と手を鳴らす。


「忘れていた、メリークリスマス、リョウくん」

「ああ、メリークリスマスだな」


 最高の笑顔をプレゼントしてくれた。

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