第290話

 リョウを元気づけるために、アキラが用意してくれたサプライズ。

 なんと猫耳の魔女っ子だった。


「すまん、お菓子はない」

「なんだと〜」


 頬っぺたにキスされる。


「このキスは魔法なのだ。もう貴様は嘘をつけないのだ」

「なんだと⁉︎」

「では、仕切り直しだ。もう一度問おう。お菓子の在処ありかを正直に教えたまえ」

「あそこです」


 リョウは映画のモブキャラみたいに冷蔵庫を指さした。


「おおっ!」


 アキラが発見したのは2つのプリン。

 ハロウィン限定で発売されている、カボチャ味のやつ。

 アキラが気に入ると思って事前にリサーチしておいた。


「これ、食べていいの?」

「もちろん、一緒に食べようぜ」

「わ〜い! パンプキン味だ〜! リョウくん、わかってる〜!」


 フィギュアスケートの選手みたいに、ミニスカートのすそがヒラヒラと舞う。


「カボチャって、この季節が一番おいしいよね〜」

「まあな。秋の味覚の代表格ではあるな」

「カボチャのない秋なんて、ペンギンのいない南極大陸だよ〜」

「なんじゃ、そりゃ」


 ちなみにカボチャの旬は1年に2回ある。


 収穫されたばかりの夏。

 水分が多くてあっさりした味わい。


 次の旬は秋から冬。

 熟して甘くなっている。


「アキラは魔女っ子だから、魔法とかつかえるの?」

「もちろん、つかえる。あと、僕はアキラじゃない。猫耳ウィッチ・アキにゃん」

「なんか披露ひろうしてよ」

「そうだな〜。カボチャプリンのお礼にやってやるか」


 ちちんぷいぷいと呪文を唱えた。

 それから、もぎゅ〜とリョウに抱きついてくる。

 優しく包むように。


「アキにゃんさん、これはどういった魔法なのでしょうか?」

「ハグの魔法なのである。ターゲットを幸せにする効果がある、愛の魔法なのだ。この世から争いを減らして、世界を平和にする」

「ほう……」


 胸がキュンキュンする。

 たしかに効果は絶大らしい。


「リョウくん、元気になった?」

「ますますアキラにれた」

「いやん」

「ちなみに、お菓子はまだある」

「本当?」

「ほしい?」

「うぬ」

「じゃあ、一緒に食べるか」


 リョウが冷蔵庫から取り出したのは、一口サイズのモンブラン。

 チョコレートのトリュフみたいな容器に入ったやつ。


 これなら少食のアキラも食べやすいと思い、買っておいたのだ。


「あわわわわわっ⁉︎ なにこれ⁉︎ かわいい! おしゃれなデザインだから、食べるのが勿体もったいないな〜!」


 予想通りのリアクションだったことに、リョウはこの日一番の満足感をおぼえる。


 いざ、2人で実食。


「うまっ!」


 アキラはびっくりしてジャンプした。

 猫耳と尻尾が揺れるから、ますますキュート。


「こうなったら僕の上級魔法を披露せねば」

「なんなの? 歌ってくれるの?」

「いいや……」


 こっちにお尻を向けてマーキングしてきた。

 猫みたいに、すりすりすり、と。


「ニャンコにとって、お尻はデリケートな部分なのだ〜。信頼の証として、ご主人様にタッチを許すのだ〜」

「かわいいな、おい」


 アキラのお尻に触れるのは、初めてのことじゃないが、許可をもらってお触りするシチュエーションがたまらない。


 小さい。

 かつ、柔らかい。


「他にも魔法はあるの?」

「もちろん! 今日のためにたくさん考えてきた!」

「アキラは最高の恋人だな」

「はぅ……」


 リョウが後ろから抱きしめると、アキラは照れ笑いしてくれた。

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