第188話

 そして日曜。


 サナエちゃんに会いにいった。

 昔のアキラをよく知っている清水サナエ、その人である。


 待ち合わせに指定したのは駅近くのカフェ。

 リョウたちが約束の10分前にいくと、向こうもぴったり10分前に到着していた。


 さっそく本題。

『斬姫サマ!』とその作者について質問してみる。


十束とつかレンちゃんだよね〜、高1でプロデビューするなんて、本当にすごいよね〜」

「ほら、みろ。やっぱり、アキラの元クラスメイトじゃねえか」

「うはっ⁉︎」


 楽しそうなサナエとは対照的に、アキラはバツが悪そうな顔をしている。


 十束レン。

 小6の1年間だけ、アキラやサナエのクラスメイトだった。


 サナエはわざわざ卒業アルバムを持ってきており、


「ほらほら、この子だよ」


 と指で教えてくれる。


「レンちゃんがプロデビューしたときにね、私、ファンレターを送ったんだ〜。手紙の末尾に、xxx小学校に通っていた十束レンさんですか? と付け加えておいたんだ。そうしたら、レンちゃんからお返事がきて、手紙をものすごく喜んでくれて……。そっか、そっか、アキちゃんは本物のレンちゃんに会ったんだ」

「ま……まあね……」

「元気そうだった?」

「うん、元気だよ、たぶん」

「レンちゃん、アキちゃんのことを覚えていたんじゃないの?」

「そう……だね……」


 アキラの声は震えている。

 いくらサナエが旧友でも、レンに向かって、


『本当の本当に知らないんだ!』

『きっと同姓同名の不破アキラだ!』


 と吐き捨てたなんて、口が裂けてもいえない。


 でも、これで最大の謎は解けた。

 アキラは『四之宮レン』が本名だと思い込んでいた。

 それだけのシンプルな話。


 しかし、アキラだけを責められない。

 レンだって、xxx小学校で一緒だった十束レンです、と名乗っておけば、一瞬で思い出しただろうに。


 まだ謎は残っている。


「清水さん、一つ質問なんだけれども」

「サナエでいいよ」

「じゃあ、サナエさん」


 アキラとレンは仲が良かったのか?

 ストレートに質問してみた。


「う〜ん、仲が良い、は少し違うかな」


 レンは誰とも群れない女の子。

 ずっとマンガを描いていたから、クラス内で浮いた存在だった。


「何か心温まるエピソードみたいなやつは?」

「そうそう、レンちゃんって、よく男子から悪口をいわれていたから、アキちゃんが助けてあげていたよね。でも、アキちゃんは人気者だから、いつもレンちゃんの近くにいるわけじゃないじゃん。そうしたら、見えないところでね……」


 嫌がらせを受けるわけか。

 レンにとって、小学6年生の1年間は、あまり愉快な時期じゃなかったっぽい。


「あっ、そうそう」


 サナエがポンと手を鳴らす。


「1回だけ男子をボコったよね」


 アキラがコーヒーを吹きそうになる。


「サナエちゃん、その話は……」

「え〜、いいじゃん。アキちゃん、格好よかったし」

「あぅあぅ……でも、大昔だからなぁ」


 とある男子がレンを泣かせた。

 背後から驚かせたら、飲みかけのお茶がこぼれて、レンのお絵かきノートが汚れて……みたいなハプニングだった。


 そんで、男子の謝り方がテキトーだった。

 それを見たアキラが激怒して、掃除ロッカーからホウキを取り出し、その男子を滅多打ちにしたのだ。


『心の傷はな! これの何倍も痛いんだぞ!』

 とかヒーローっぽいセリフを吐きながら。


 先生が2人がかりでアキラを止めた。

 鬼気迫る表情だった、とサナエはいう。


「びっくりしたよ〜。当時のアキちゃん、まあまあ野蛮やばんだったけれども、あの日が一番ヤバかったよね」

「あの日はね、たぶん、別のことでムシャクシャしていて……」

「でもさ、超クールだった、て女子のあいだで評判だったよ。その男子がね〜、女子から嫌われているやつでさ〜。思い出したら笑えるな〜」

「あぅあぅ……」


 マジで?

 アキラが? 野蛮なの?


 現在の姿からは1ミリも想像できないのだが……。

 もしかして、小学6年生のアキラの方が強いんじゃ……。


 斬姫=アキラ説についても意見をもらっておいた。


「モデルがアキちゃん? 私はありえると思うよ」


 あっさり肯定される。


「というか、そうなんじゃないかな〜、て前から思っていたよ。斬姫の天然キャラとか、怒った顔とか、アキちゃんだよね〜。……えっ⁉︎ もしかして、本当にアキちゃんがモデルなの⁉︎ それって超ロマンチック! もはやディスティニーだよね!」


 サナエは最後にそう締めくくった。

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