第293話

 4回目の全統模試の結果が返ってきた。


 これは運命の分水嶺ぶんすいれいってやつである。

 成績が伸びている生徒、成績が伸びていない生徒、その差が如実にょじつに現れるのが4回目なのだ。


 リョウの結果はというと……。

 B判定! きたこれ!

 嬉しさのあまり、7回くらいガッツポーズを決めた。


「宗像くんはどうだった〜?」


 ひょっこり首をのぞかせてきたのは、くりくりお目々のアンナ。


「まあまあだよ。雪染さんは?」

「私もまあまあだよ」

「じゃあ、せ〜の……」

「ほい!」


 見せ合いっこする。


 アンナはB判定が3個あった。

 やるな、B判定1個のリョウとは大違い。


「おっ! 宗像どしたん? B判定があるじゃん! さては覚醒かくせいしたか?」


 胸をぐいぐい押しつけて絡んできたのはキョウカ。


「かもな。アキラに応援してもらった恩恵かな」

「やるじゃん、さすが同性愛カップル」


 アキラが横槍を入れてきた。


「ちょっと、神楽坂さん、失礼」


 キョウカを無理やり引き離す。


「リョウくんはいま、勉強に集中している時期なんだ。その胸でいたずらに誘惑しないでくれるかな? リョウくんの成績が下がってしまう」

「うわっ⁉︎ 不破キュン、怒っている⁉︎ 王子様スマイルで怒っている⁉︎」

「別に怒ってはいないよ」

「怒っているじゃん!」


 バチバチバチッ!

 女の子の火花が飛びまくり。


 アキラの場合……。

 キョウカの巨乳に嫉妬しっとしているのも影響している。


「キョウカも、不破くんも、オールA判定同士でしょ。ほら、仲良く、仲良く」

「うわっ……雪染さん」

「ちょっと、アンナ」


 アンナの仲裁により、和解の握手を交わす。


 そこへ担任がやってきた。

 アキラの顔をじぃ〜とにらむ。

 穴が空きそうなほど凝視している。


「なあ、不破くん。もう少し上の志望校を目指してみないか?」

「えっと……」

「神楽坂さんは、ご家族の方針により、東京の私立を目指すことが決まっているが、君の家はそうじゃないだろう。これから医学部を目指す道だってあると思うのだが……」

「お気遣いありがとうございます。ですが、大丈夫です。お医者さんになるより、別にやりたいお仕事があるので」

「そうか。意志は硬いか。なら、自分で決めた道に進むしかないな」


 アキラがきっぱり断言したので、担任もそれ以上触れてこなかった。


 そして、帰り道。


「リョウくん! この1ヶ月ですごい成長したね!」

「まあな〜。なんかさ、大学って楽しいんじゃないの、と思えてきた」

「へぇ、その心は?」


 たとえば、マンガ。

 リョウは高校生だから、大学生活はまったく描写できない。


「大学生になったら、リアルな大学生活を描写できるだろう。つまり、マンガ家として成長できると思うんだ。そう考えたら、勉強がんばろうかな、と思えてきた」


 勉強とマンガ。

 それは相反する道じゃない。

 コインの裏表みたいに一体となっている。


「おお、リョウくん、成長したね」

「そうか?」

「うん、君は前進しているよ」


 アキラは人差し指をピシッと突きつけてきた。

 よくできる予備校の教師みたいに。


「よしっ! 僕がご褒美ほうびとしてドーナツをおごってやる!」

「それ、アキラが食べたいだけだろう」

「いいんだよ! リョウくんもドーナツが好きだろう!」

「まあな……」


 リョウは足を止めた。

 アキラが振り返り、キョトン顔になる。


「やっぱり、ドーナツ屋はなしにしよう」

「えっ⁉︎ なんで⁉︎」

「ちょっとお高いケーキ屋にしよう。俺がおごってやるよ。アキラへの日頃の感謝ってやつだ」

「やったね!」


 指を鳴らす、パチン! が響いた。

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