第143話

 本日の超々々注目イベント。

 女装コンテストの時間がいよいよやってきた。


 ザワザワしている体育館の脇に、更衣スペースが設けられており、各クラスの代表者がメイクアップしている。


 会場の様子をチェックしてみた。


 すでに600人か700人は入っている。

 アーティストのライブかと疑いたくなる盛況っぷりといえよう。


 大丈夫だよな。

 アキラ、たくさん準備してきたし。

 ランウェイを往復すれば優勝できる、それだけの作業のはず。


 不安があるとすれば空模様。

 アキラって雷が苦手だから、コンテスト中に雷鳴が響いたりしたら、ひるんで動けなくなるかも。


 リョウは自分の頬っぺたを叩いた。


 脇役がビビってどうする。

 雨雲なんて吹っ飛ばしてやる! くらいの気合いで応援しないと。


「はい、完成」


 キョウカが鏡を広げて、いろいろな角度からアキラを写してあげる。


「どうかな? ドレスの色が大人しめだから、お化粧けしょうもキツくないカラーをチョイスしました」

「うん、ありがとう」


 今日のアキラ。

 メッチャかわいい。

 本物のお姫様みたい。


 髪の毛もフワフワしているし。

 かわいすぎて、中身が女だってバレないか、心配になるレベル。


「どうかな、リョウくん」


 アキラがくるりと一回転する。


「結婚してくれ」


 リョウが親指を立てると、軽くチョップされた。


「冗談はいいよ。最後の仕上げ、リョウくんにお願いしてもいいかな」


 イヤリングを渡されたので、アキラの耳たぶにつけてあげた。


「似合ってる?」

「うん、完ぺき」


 アキラはお祈りポーズをつくると、


「今日の僕はかわいい……今日は僕が主人公だ……大丈夫……リョウくんとキョウカちゃんがついている……ありのまま……ありのまま……人は皆、ありのままが一番うつくしい」


 呪文のように唱えて出ていった。


 キャーキャーという黄色い声が起こる。

 不破くん! ドレスだ! すごい! お姫様みたい! という歓声も。


 キョウカに肩をポンポンされた。


「不破キュン、巣立っていったね。今日を無事に乗り切ったら、宗像がいなくても、人混みをウロウロできるようになるんじゃないの」

「だから心配なんだよ。こういう場でミスしたら、ずっと引きずるだろう」

「なんなの? 素直に応援しないの?」

「そりゃ、応援するが……」


 わからん。

 キャーキャーという声は、本当にアキラの応援になっているのだろうか。


「遠くからアキラを見守る。それが俺なりの応援だ」

「ふ〜ん、宗像らしい」


 まず実行委員からルールの説明があった。


 投票は1人につき1票。

 携帯から専用サイトにアクセスする。


 集計タイムが終わったら、その場で結果を発表して、グランプリ受賞者にティアラを贈呈ぞうてい

 ここまでがコンテストの流れだ。


『名前はあえて伏せますが、今年は大本命の生徒がいますからね!』


『でも、油断はできませんよ! どのクラスもクオリティは高いですから!』


 ステージの幕が上がりはじめた。

 天井のライトが激しく点滅して、アップテンポなミュージックが流れはじめる。


『コンテストに参加してくれた、勇気ある生徒たちに盛大な拍手を!』


 パチパチパチ!

 いったん拍手が収まったとき、落ち着いた曲調に切り替わり、スポットライトの光が降ってきた。


『それでは参加者を1名ずつ紹介していきます。まずはエントリーナンバー1番……』


 きた。

 ランウェイ開始だ。

 運営委員の人がプロフィール情報を読み上げるので、そのあいだに自分の魅力をアピールする。


 アキラは5番手。

 あっという間に順番が回ってきた。


『続きまして、エントリーナンバー5番、我が校のプリンス、不破アキラくんです! その人気っぷりを物語るエピソードは数知れず……』


 バレンタインの日はヤバいとか。

 律儀にホワイトデーにお返しするとか。

 不破くんが人気すぎて、生徒会まで動くとか。

 たくさんの思い出話が語られる。


 こんなに堂々として格好いいアキラ、初めてだ。

 私を見ろ! この姿を目に焼きつけろ! という心の声が聞こえてきそう。


 そして折り返し地点。

 うつくしいモデルウォークを決めてきたアキラが、何個かポーズを取る。


 そこに洪水のようなフラッシュの光が注がれたとき……。


 ドッカンッ!

 ゴロゴロゴロゴロ〜ッ!


 学園の上空で、でっかい雷が鳴ってしまった。

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