第45話

 選考結果のページを見せてもらった。


 上から順に、大賞、佳作、入選、奨励賞。

 そしてラストに……。


『チャレンジャー賞』

『賞金3万円』


 さらにスクロールすると……。


『作品名:RPGみたいな異世界へやってきた高校生のお話』


 おおっ!

 夢みたいな話だ。

 自分の作品だけれども、自分の作品じゃないみたい。


『作者名:無量カナタ@俺はマンガ王になる男だ!』


 うはっ⁉︎

 謝罪の理由はこれか⁉︎


「ホントごめん!」

「えぇぇぇぇ〜」

「受賞してほしくて……長いペンネームの方が目立つかと思って……負けたくないという気持ちが暴走しちゃって……」


 すごい自己じこ顕示欲けんじよくだな。

 このページの金の卵たち全員にケンカを売っている。


「あっはっは!」


 クククッ!

 ゲラゲラゲラゲラゲラゲラッ!


「……リョウくん⁉︎」

「アキラ、お前、天才かよ!」


 少年マンガの主人公みたいな発想。

 リョウなら絶対に思いつかない。


「アキラがこのペンネームにしてくれたおかげで、チャレンジャー賞に選出されたのだと思う」

「いや、逆かも……鼻持ちならない男だと思われて、佳作とか入賞から外されたかも……」

「でも、メッチャ気持ちいい! このページを見ている誰かが、こいつ、何者⁉︎ とか叫んでいるからさ!」


 リョウは大笑いした。

 釣られてアキラも笑いはじめる。


「マンガ王って! すげぇ強そう! そんな能力スキルがあったら、他人の記憶とか運命をコントロールできるよな!」

「ちょっと、リョウくん!」

「すまん、すまん」


 賞金の3万円は折半せっぱんしよう、と持ちかけた。


「ダメだよ。マンガの奨学金として授与されるのだから」

「でも、アキラが応募してくれなかったら、1円も手に入らなかったお金だぜ」

「ダメダメダメ。絶対にダメ。そんなこというなら、さっさとプロデビューして、稼いだお金でディナーでもアクセサリーでもプレゼントしてください」

「おう、わかった」


 腹筋がピクピクしている。


 にしても、マンガ王って……。

 ペンネーム=本名じゃなくて助かった。


「話は変わるけれども、リョウくんって、イライラしても我慢できるよね。秘訣ひけつはあるの?」

「知りたい?」

「うん」

「怒りたくなったら、アキラのおっぱいを想像する。たった3秒で心が穏やかになる」

「この思想犯! ハレンチだぞ!」

「冗談だよ」

「むぅ〜」


 それから数日後。

 リョウとアキラは学校へやってきた。


 今日はプールの開放日。

 自由参加なのだが、クラスメイトの8割が顔をそろえている。


「きゃはは〜! キングの髪型、野球のホームベースみたいになってやんの〜!」


 抜群のプロポーションを披露してくれたのはキョウカ。

 大人っぽい黒水着が男子の心をわしづかみ。


「うるせえ……自分なりのケジメなんだよ」


 ミタケは部活の大会で大きなヘマをやったらしい。


「宗像くん、久しぶりだね」


 そういって登場したのはアンナ。

 お洋服みたいなピンク色の水着が似合っている。


「雪染さん、手の甲とか、ちょっと日焼けした?」

「えっ⁉︎ わかる⁉︎ 実は家族でキャンプしてきて……」


 両親の趣味がアウトドアとのこと。


「宗像くんは白くなった?」

「まあな。絶賛引きこもり中だから」

「マンガをがんばっているんだ。今のうちにサインもらおっかな。将来、プレミアがついたりして」

「いや、それは買い被りすぎ」


 アンナは正統派のヒロインって感じ。

 次回作の参考になるかも。


「あっ、不破くんだ!」

「雪染さん、お久しぶり。その水着、とてもかわいいね」


 アキラが文庫本から顔を上げながらいう。


「そうかな〜。ピンク色だから、子どもっぽく見えないか、けっこう不安なんだよね〜」

「そんなことないよ。とある女流詩人がうたった、祇園ぎおんをよぎる桜月夜さくらづきよ、というフレーズを思い出すね」

「不破くん、吟遊ぎんゆう詩人みたい! 和歌がスラスラ出てくるなんて!」

「時代が時代なら、そんな職業もありかな」


 しれっと和歌を口ずさむとか。

 いつの時代の貴族だよ。


「何を読んでいるの?」

「ジョージ・オーウェルが書いた1984年だよ。死ぬまでに読むべき一冊として、たびたびクローズアップされている」

「おおっ! インテリで格好いい!」


 恐るべし、ロミオ補正。

 普通の高校生なら、文学オタクきもっ! となるのに。


「不破くんは泳がないんだ?」

「僕は気管支が、ね」

「ざんねん……」


 プールが開放されるのは2時間。

 リョウは水球のチームに加わった。


 女子はビーチボールや水鉄砲で遊んでいる。


 きゃっきゃうふふの笑い声。

 マンガの参考資料として申し分ないシーンだ。


 途中、プールから上がるキョウカを見かけた。


「不破キュンは水着を着ないの〜?」


 とか


「ここにいる女子全員が楽しみにしていたのに〜」


 とか


「個人的には、5,000円払ってでも見たいな〜、なんちゃって」


 とか冗談をいって楽しんでいる。


 アキラは赤面しまくり。


「でも、不破キュン、キュートな顔立ちだから、男の子の水着より、女の子の水着が似合っちゃったりして〜。きゃはは〜」


 おのれ。

 キョウカめ。


 アキラの水着姿とか。

 凶器レベルでかわいいに決まっているだろうが。


「あぅあぅ……神楽坂さん、イジワルはやめてよ……」

「きれいな肌してるのに勿体もったいない」

「神楽坂さんだって」


 リョウは二人の会話を注視するあまり……。

 水球のゲーム中だということを忘れてしまい……。


「おい! 宗像! そっちにボールがいったぞ!」


 バチンッ!

 頬っぺたに流れ玉がめり込んで、一瞬、意識を飛ばしてしまった。

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