第313話
実質、アキラ断ちなので、3学期のスタートが待ち遠しい。
リョウは予備校へ向かうべく、さっさと朝食をすませて、身支度を整えていた。
この時期、たくさんの学生がピリピリしている。
予備校の自習室へいけば、モチベーションの高い集団がおり、彼らの近くに座ることで、ポジティブな恩恵を受けられるのである。
「あら、リョウ。もう出発するの?」
「まあね。のんびりしていると、自習室の席がなくなるからね」
母がのそのそと起きてきて、トースターにパンを突っ込む。
カナミの受験もそうだったが、うちの親はあまり子どもの心配をしない。
受験の倍率を聞いても、へぇ〜、そうなんだ〜、くらいのリアクション。
世の中には受験に熱心な親もいる。
きっと本人がそのように教育されたのだろう。
リョウの祖父母は、田舎育ちのせいか、全員がおっとりしている。
「お昼には1回帰ってくるでしょう。なにを食べたい?」
「消化にやさしいものかな。腹痛になったら悲しいしね」
「じゃあ、カツカレーにしよっと」
「話を聞いてる?」
アキラからもらったマフラーを首に巻いて、家から出発する。
けっこう寒い。
ここ数日は晴天続きなので、北風が元気いっぱいなのだ。
アキラのマンション前で意外すぎる人物と出会った。
おしゃれに着飾ったキョウカが立っており、携帯を操作する指にはぁっと吐息を吹きかけている。
「あれ? 野生の神楽坂さんだ。これはめずらしい」
「よっ、宗像。これからお出かけ?」
「予備校ね。ゆえに足取りはすこぶる重いよ」
「なにそれ。新年早々モチベーションが低いなぁ」
新年という言葉で思い出す。
「あけましておめでとうございます」
「今年も一年間よろしくお願いします」
キョウカはお嬢様だから、おじぎの角度がうつくしい。
「どうしたの? トオルさんに会いにきたの?」
「いやいや、今日はアキラちゃんだよ」
「へぇ〜、楽しそうで羨ましい」
大学によってはAO入試や推薦入試の結果が出ている。
すでに第一志望に合格しているキョウカは、天下御免の合法ニートみたいな存在といえる。
「羨ましいってな……日頃からコツコツ積み上げておいた貯金の成果なんだよ」
「たしかに。日頃からがんばってきた神楽坂さんには自由を
ちょっと離れた位置に
運転席に座っているのが神楽坂家のドライバーらしい。
コツコツと足音が近づいてくる。
厚手のコートをまとったアキラがエントランスから出てきて、やあ、と手を振ってきた。
「あ、リョウくんがいる。奇遇だね」
「おい、アキラ」
今日のアキラはワックスで髪の毛をふわふわにしている。
男性物のブーツを
「これからキョウカちゃんとデートなんだ」
「相変わらずのイケメンだな」
「むふふ」
これは不倫なのか?
キョウカはトオルの恋人だからW不倫か?
でも、この2人って学校の友だち同士だしな。
「きゃ〜! アキラくん! 格好いい!」
「キョウカちゃんもかわいいよ」
「私のためにキメてきてくれたの?」
「当然じゃないか〜。はっはっは〜」
こうして眺めると、完全にお似合いの男女という感じで、リョウとしてはコメントに困るのである。
「おい、アキラ、今日はどこへいくんだよ?」
「遊園地だよ。ニューイヤー限定のパレードをやっているのさ」
「受験が控えているのに余裕だよな。夜は寒いから風邪を引くなよ」
「もちろん、防寒対策はパーフェクトさ。なんたって、今日はかわいいカノジョがいるからね」
もう一度アキラを見つめる。
日によって女になったり男になったり器用なやつめ。
セダンの後部座席のドアが開いて、アキラとキョウカが乗り込む。
「リョウくんはお土産、なにがいい?」
「そうだな。消化にやさしいやつで頼む」
「消化にやさしいって……おじいちゃんみたい」
これから夢の国へと向かう車は、カボチャの馬車みたいに
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