第122話

 修学旅行3日目の予定はアクティビティだ。

 トレッキングとか、サイクリングとか、渓流けいりゅう釣りとか、班ごとに分かれて雄大な自然をエンジョイする。


 リョウたちのグループはカヌー体験。


 エメラルド色をした川のほとりへやってきた。

 川面かわもが鏡みたいになっており、晴れた空を反射している。


 まずは6人乗りのカヌーで初心者コースを下った。

 そのあと、1人乗りのカヤックにも乗せてもらった。


「なに宗像は一人で黄昏たそがれてんだよ!」

「ノリ悪いぞ!」


 クラスメイトのカヤックが体当たりしてくる。


「あそこの岩まで競争するか?」

「おう!」

「望むところだ!」


 3人でスピード勝負した。

 わりと本気を出したから、みんな汗だくに。


「けっこう早いな」

「そっちこそ」


 ふとした瞬間、視線でアキラを探してしまう。

 バカだな、ここにいるわけないのに。


「不破ってモテるよな」


 ひとりがパドルで水面をかき回しながらいう。


「なんで病的なまでに人気なのか、宗像は知っているのか?」

「アキラは、たぶん、女心がわかるから」

「ああ……」

「なるほど」

「女子にも友だち感覚で話すよな」


 そりゃね。

 中身が女の子だからね。


「俺が不破だったら、さっさと雪染さんあたりと付き合っちゃうのに」

「だよな。これからクリスマスとか控えているしな」


 同行しているカメラマンが忙しくシャッターを切っている。

 リョウたちも何枚か撮ってもらった。


 帰りのバスでは、眠っている生徒の姿が目についた。

 リョウは携帯をチェックして、アキラからメッセージが届いていないか確認する。


『リョウくんは何してきた?』


『俺はカヌー体験だな』


『僕はお馬さんに乗ってきました』


 写真が送られてくる。

 大人しそうな白馬と、ジョッキーみたいな帽子をかぶったアキラが写っている。


『昔の武将ってさ、馬上で槍とか振り回したんだよね』


『だろうな。半端ねえな』


『半端ねえな』


『自分とか味方を斬りそう』


『たしかに』


『アキラは馬から落ちなかったのか?』


『まあね。トコトコ歩いただけだから。でも、すごいんだよ。僕が手綱で指示した方向に、ちゃんと進んでくれるんだ』


『馬に好かれているのかもな』


『むふふ。あとでエサやり体験しよっと』


 楽しそうだな、おい。

 リョウは携帯をしまって、そのまま眠りについた。


 三泊目のホテルに集合したとき、クラスメイトが一部欠けていた。


 アンナと、キョウカと、ミタケと。

 あとトレッキングに参加していた女子が何名か。


 他のクラスは順次チェックインする中、リョウたちは待機することに。


『須王くんが他校の生徒をぶん殴った』

 みたいな会話が聞こえた。


「マジかよ」

「あいつ、やりやがった」


 事情を知っている生徒の周りに輪ができる。

 たしかにミタケは粗暴そぼうだけれども、理由もなく人を殴るキャラじゃない。


「俺も実際に見たわけじゃないけれども……」


 トレッキングに西日本からきた高校が参加していたらしい。


 うちの学生と向こうの学生がトラブルになった。

 その場にアンナがいて、仲裁しようとしたら突き飛ばされて……。

 それを目撃したミタケがブチ切れて……みたいな流れらしい。


「キングは今日、帰るってこと?」

「じゃねえか。警察沙汰だし」


 おぉ! とどよめきが上がった。

 キング、すげぇ、男だな、よくぞ殴った、番長だな、みたいな声がチラホラ上がる。


 先生とアンナたちが戻ってきた。


「ど〜しよう、私のせいで須王くんの修学旅行が終わっちゃった」


 アンナはショックを受けている。


「あいつ、本当に暴力沙汰を起こしやがった」


 キョウカも別の意味でショックを受けている。


 先に手を出してきたのは向こうの生徒。

 ミタケとしては、殴られたから殴り返した形。


 とはいえ、暴力は暴力だから、許されるはずもなく、このまま自宅に送り届けられたのち、処分を待つことになるそうだ。


「ツイてねぇ〜」


 キョウカが頭を抱えていたので、リョウはなぐさめの言葉をかけておいた。


「これ、神楽坂さんが理事長に怒られるってこと?」

「すでに電話口で怒られた。須王ミタケをマークしておけって、あれほど注意したのに、何というザマですか⁉︎ だってさ。知らねぇ〜よ。だって、あいつが勝手に殴っちゃったんだもん。私が駆けつけたときにはね、向こうの生徒、鼻血ダラダラだったから。バーカ、バーカ、キングを挑発して殴られたやつが一番のマヌケだ〜」


 さすがに同情するな。

 せっかくの修学旅行なのに、学園のトップからお叱りの電話がくるなんて。


「昨夜のラッキーが帳消しだな」

「別にいいもん。トオルさんに励ましてもらおっと」


 ミタケ以外のメンバーがそろったので、ようやくリョウたちもチェックインした。

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