第307話

 12月30日になった。

 年の瀬を迎えた宗像家では、朝から大掃除がおこなわれている。


 3人で分担して、キッチンとか、水回りとか、ベランダとか、1年分の汚れを落としていく。

 あみ戸を掃除するため、窓が開けっぱなしになるから、けっこう寒い。


 呼び鈴が鳴った。

 やってきたのは、コートを羽織ったアキラ。

 リョウくんの大掃除、手伝いにきてやったぞ、と。


「余裕だな。アキラの家はいいのか?」

「我が家は年中きれいなんだ。週末ごとに僕とママが一通りお掃除するからね」

「なるほど。アキラのお母さん、きれい好きのイメージあるしな」

「僕はどこを掃除すればいい?」

「そうだな……」


 母にも相談して、廊下を担当してもらうことにした。


 母が父に財布を握らせている。

 これでアキラちゃんにあげる洋菓子を買ってきて、と。


「よかったな、アキラ。あとでご褒美もらえるぞ」

「失礼な。これはボランティアだから、お菓子目当てじゃない」

「その割には嬉しそうじゃねえか」

「まあね〜」


 布団をパンパンする音が近くの民家から聞こえてくる。

 今日は晴天だから、寝具を干す家は多そう。


「どうだ! リョウくん! ピカピカだろう!」


 アキラがちりひとつない廊下を自慢してくる。


「さすがアキラだ。見えにくい部分までこだわる性格が出ているな」

「むふふ〜。神は細部に宿るからね〜」


 それが終わったら、2人でリョウの部屋をきれいにする。


「うわっ⁉︎ 今日のリョウくんの部屋、散らかっている!」

「荷物を整理しようと思ってね。ほら、物を減らすと勉強がはかどるというだろう」

「なるほど。そのせいか」


 床にうず高く積まれたマンガ本をアキラが気にした。


「これ、古いマンガばかりだね。もしかして、捨てちゃうの?」

「さすがにマンガは捨てない。本棚に収まりきらないから、ダンボールに詰めて、俺の部屋から移動させようと思っている」

「ああ、お引っ越しか」


 アキラが一冊を手に取りペラペラとめくる。

 昔に読んだ作品らしく、見開きのページを見せてくる。


「なつかしいな、このシーン。アニメで放送されたのを覚えている。BGMが切り替わって、挿入歌が流れてくる場面だよね」

「よく知っているな。一回こりっりのために歌をつかうんだと、当時は感動したな」

「そうそう。アップテンポで良い感じの曲だった」


 こんな調子だから、リョウの部屋の掃除はなかなか進まない。


「あ、リョウくんの卒業アルバムだ。見てもいい?」

「ああ、いいぞ」


 小学校と中学校で2冊ある。


「え〜、リョウくん、寄せ書きのページが白紙じゃん!」

「仕方ねえだろう。途中で転校してきた生徒なんだ。それになんだ……アルバムは美品のまま保管しておきたいっていうか、余計な落書きはしたくないっていうか」

「ふ〜ん、リョウくんらしいね」


 小学校も、中学校も、友だちがゼロというわけじゃない。

 ただ、アキラほど波長の合う友人がいなかっただけ。


「高校の卒業アルバムが配られたら、たくさん書こうよ」

「アキラの寄せ書きページは、派手な感じになりそうだな」

「リョウくんもそこに書くんだよ。僕も書いてあげるからさ」

「へいへい。ニャンコを描いてやるよ」

「やったね」


 アキラが、おっ! と目を大きくした。

 リョウが机に置きっぱなしの年賀状だった。


「僕のぶん、描いてくれたんだ!」

「バレたか。当日、こっそり渡す予定だったが……」


 来年の干支はとら

 以前に約束した通り、虎のかぶり物をつけた猫を描いている。

 まだ色を塗れていないけれども。


「安心しろ。ちゃんと元旦までには仕上げる」

「なんか悪いねぇ。受験勉強で忙しい時期なのに」

「いやいや、ちょうどいい息抜き」


 アキラはクスリと笑った。

 するとリョウの元気も湧いてくる。


「ねえねえ、リョウくんの部屋って、エロ本とかないの?」

「ねえよ。いつの時代の高校生だよ」

「むむむ……デジタルデータで隠し持つ時代なのか」

「そうだな。エロ本じゃないけれども、エロ寄りのマンガならある。ギリギリ18禁じゃないやつ」

「本当だ! これって18禁じゃないんだ!」

「アニメ化できないレベルだけどな」

「どれどれ」


 アキラが中身をパラパラとめくる。

 いやん! えっち! といってそっと閉じた。

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