第78話

 アキラは、ふ〜む、とため息をついて、返事を待つキョウカをジレジレさせた。


「いいよ」

「本当に⁉︎」

「もちろん。パーティーは盛り上がった方が楽しいしね」

「さっすが! 大好き!」


 キョウカは喜びを爆発させて、頬っぺたをこすりつける。


「あぅあぅ」

「愛してるぜぃ!」

「逆に確認なのだけれども、一年したら、トオルくんに対する熱が冷めていたりしない?」

「それはないね!」


 強く断言する。


「トオル様はね、完ぺき超人なの。突き抜けた存在だから、シリウスみたいに不動の一位よ」


 おおいぬ座のシリウスか。

 ヒトが見える一番明るい星として有名。


「来年の今日だって、シリウスは強く光っているでしょう」

「だろうね」

「トオル様も一緒。いつまでも輝いているの」

「でも、お星様と違って、アイドルの人気は陰るかもしれない」

「それはない! だって……だって……」


 キョウカは瞳をうるませる。


「約束してくれたもん! 俺はシリウスだって! いつもは見えないけれども、遠くからお前を照らしてやるって!」


 いやん。

 リョウもいってみたい。

 女子高生に向かって、お前のシリウスになってやるよ、だってさ。


「ゲホッ! ゲホッ! ……とんでもない男だね」

「そうよ。トオル様はとんでもない男なの」

「これだから……」


 アイドルってやつは。

 罰当たりな生き物なんだ。


 アキラは文句をいいたそうな目をしている。


「もし、私の恋が実って、トオル様と結ばれるようなことがあったら、私たち良いシュベスターになれるわね」

「シュベスター? ドイツ語で姉妹だっけ? もしかして、神楽坂さんのお家って、猫を飼っていたりする?」

「たくさんいるわ。親戚のおばあちゃんの家なんか、でっかい敷地の中で101匹も飼っていらしてよ」

「101匹ニャンコ⁉︎」


 アキラが身を乗り出して食いつく。


「世界中の猫に加えて、珍しいオッドアイも数匹いるんだから。一年中、猫の万国博覧会みたいなものね」

「あわわわわ……すごすぎる……地上の楽園だ」


 ぜひ招待してください!

 今度はアキラが拝み倒す番である。


「というわけで」

「同盟成立ね」


 欲望にまみれた二人はギュッと握手する。


 でも、いいな。

 キョウカの表情はキラキラしている。


 夢中になれるものがあるから?

 クリスタル・ガラスみたいに眩しいのだろうか。


 自分らしく生きること。

 それは、シンプルに、バカ一直線に、感情のままに生きることなんじゃないかと、キョウカを見ていると思えてきた。


「あ、いけない! ショーを観にいく時間だ!」


 キョウカはバーガーの残りをかき込むと、ドリンクの容器を片手に立ち上がった。


「邪魔して悪かったわね! グッドラック! 明日の始業式で会いましょう!」


 手でバイバイしながら去っていく。


「台風みたいな女の子だな」


 とリョウはいう。


「ほら、恋のせいでIQが20は下がっているでしょう」


 とアキラが目を細める。


 でも、アイドルに恋するって、青春だよな。


 ○○ちゃん(芸能人の名前)と結婚して〜。

 そんな冗談をいう十代はたくさんいても、実際にアクションを起こす勇気がある人間、一握りなわけであって。


 素直に尊敬する。

 あのエネルギーを。

 ひたむきな向上心を。


「神楽坂さんのいってたショーってなんだ?」

「え〜とね、いろんな種類があるのだけれども……」


 アキラが解説してくれた。


 有料のショーとか、無料のショーとか。

 抽選があるショーとか、抽選がないショーとか。


「俺は初心者だから、無料かつ抽選がないショーを観ればいいのか?」

「そういうこと。もしかして、リョウくん、ショーに興味がある?」

「勉強がてら。どんなストーリーなら子どもが喜ぶのか知りたい」

「うわぁ、不純な動機だな。いまの時間だとね……」


 これなんかどう。

 アキラがパンフレットの片隅を指さす。


「いってみるか」

「うん」


 結論からいうと、そのショーは大当たりだった。

 どのくらい面白かったかというと、


『こんなに笑えるショー、もう二度とお目にかかることがないかも』


 とアキラが抱腹絶倒ほうふくぜっとうするくらい楽しかった。


 ストーリーはいたって単純。

 古い宝の地図を見つけたキャラクターたち。

 その正体を突き止めるため、ジャングルまで探検しにいく、という筋書き。


 仲間が加わったり、謎解きをやったり、ステージ上に子どもを呼んだり。


 特大ハプニングが起こったのは、いよいよお宝発見のシーン。

 その衝撃をリョウは死ぬまで忘れないだろう。


 一人のキャラクターが段差でつまずいた。

 すると近くにいた仲間の一人をお尻でぶっ飛ばしてしまった。


 観客席からは、うわぁっ! と悲鳴があがる。

 それも一瞬で笑い声に変わるのだけれども。


 ボーリングのピンみたいに一人が転がって、別の一人を巻き込んで……。

 将棋倒しみたいに、また一人、また一人と倒れて……。


 スッテンコロリンの五連続。

 これには司会のお姉さんもびっくり。


 でも、転んじゃってもプロはプロ。

 無傷だった仲間が駆け寄るなり、


『大丈夫⁉︎』

『怪我はない?』

『何やってんだよ、ドジ!』


 とジェスチャーで客席を楽しませる。

 すると、どっと笑いの波が起こる。


「あっはっは! 腹筋が壊れそう!」

「転んでもタダでは起きないとか、プロフェッショナルだな」

「ダメだ! もうステージを直視できない!」


 バカみたいに笑いまくるアキラ。

 その声すらかき消されるくらい、ショーの会場は盛り上がっていた。


「お宝が見つかって、嬉しすぎたみたいだね! でも、良い子のみんなは、パーク内を走り回ったらダメだよ!」


 お姉さんのアドリブも絶品だった。

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