第269話

 3回目となる全統模試の結果が返ってきた。


 ドキドキしながらチェック。

 この2ヶ月くらい積み重ねてきた結果はというと……。


『C』


 合格率およそ50%を意味するC判定が1個だけあった。

 10ある志望大学のうち、たった1つだけれども。


「やるじゃん、リョウくん。成長したね」

「数学を伸ばしたからな。元がダメダメだった分、しろも大きい」


 前回はE判定だった大学がD判定に格上げされていたりと、それなりの成果を残すことに成功した。


「リョウくん、君は天才だ。やればできる人間だ」

「勉強のことでアキラが素直に褒めてくれるなんて珍しいな」

せば成る、の精神だよ。前進あるのみだよ」


 国公立の場合、受験には8科目か9科目が求められる。


 1科目に12日くらい投資したとして、およそ100日。

 受験シーズンになると、100日なんてあっという間なのだ。


「時にはお休みも必要だと思うんだよね」

「アキラが俺のリラクゼーションを計画してくれるの?」

「うん、猫カフェにいこう」


 それ……。

 アキラが遊びたいだけでは?


「だって、仕方ないだろう。周りはみんな受験生なんだ。気軽に誘えるの、リョウくんしかいない」

「あのなぁ……」


 とはいえ、いつも勉強のことばかり考えていると息が詰まっちゃう。

 外出の誘いというのは正直いうとありがたい。


 チャイムが鳴り、担任の先生が戻ってきた。

 これからHRで決めるのは、体育祭の役割分担。


 3年生が参加できる学校行事はあと2つ。

 卒業式、そしてこの体育祭。


 もちろん、学園祭は例年通りに開かれて、3年生も出店や展示を回ることはできるが、あっちの主役は1年生と2年生なのである。


(11月になれば、推薦方式の受験がスタートする。3年生はそれどころじゃない……)


 最後の思い出づくり。

 そういう意味でも特別な体育祭なのである。


「それでは、各自の担当を決めていきます」


 学級委員がチョークで黒板に書いていく。


「まず、体育祭の実行委員をやってくれる人。各クラスから男女を1名ずつ選出する必要があります」


 1秒もしないうちに手が2つあがった。


 アキラのアンナである。

 視線を合わせてニヤニヤしている様子から察するに、あらかじめ口裏を合わせて、立候補する作戦だったらしい。


「じゃあ、不破くんと雪染さんで決まり」


 一部の女子からクレームが飛び出した。

 アンナは彼氏がいるのにずる〜い! と。


 リョウがミタケの方を見てみると、フラストレーションを抑えるように貧乏ゆすりしている。


 わかるよ。

 文句をいいたいのだろう。


 でも、我慢するしかないよな。

 だって、アンナとミタケの仲を取り持ってくれたのはアキラだから、ここで文句をいっちゃうと、恋人との関係に亀裂が入っちゃうよな。


 彼女が他の男と楽しそうにしても、ドーンと構えておきなさい。

 そう割り切るには、18歳という年齢は、やや若いのかもしれない。


「どうした、キング? アキラに嫉妬か?」

「うるせぇ……」

「アキラと話すときの雪染さん、本当に楽しそうだもんな」

「それをいったら、アンナと話すときの不破も、楽しそうじゃねえか」

「あ〜、たしかに。俺はいま、雪染さんに嫉妬した」

「男が女に嫉妬とか……」


 ミタケが鼻で笑ったので、会話はそこまでだった。


 リョウは借り物競走に立候補した。

 チーム対抗リレーは順当にミタケ。


 そういや、去年はリョウがリレーを走ったな。

 ミタケが騎馬戦で負傷して、ドクターストップがかかり、その代理として出走した。


 あれは苦しかった。

 口から心臓が飛び出るかと思った。

 数ある種目の中でチーム対抗リレーだけはごめんである。


「今年は怪我すんなよ。今年のアンカーはキングだろう。そんな面倒な役目、他人に押しつけるとか、もうやってくれるなよ」

「わかってるよ、マンガ野郎」

「妹ちゃんに叱られたやつ、あれはあれで傑作だったな」

「こいつ……余計な心配しやがって。宗像だって借り物競走でヘマすんなよ」

「任せておけ。どんなお題が来ても、アキラを連れていけば問題ない」

「お前ってやつは、本当に脳みそお花畑だよな」


 小言でケンカしていたら、担任がやってきて、背後からファイルで殴られた。


「仲がいいのは構わんが、お前ら、少し黙ろうな」

「……はい」

「……うっす」

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