第211話 VS 金子隆(1)

「なるほど……」


 俺の言葉に金子は深く溜息をつくと腕を組む。


「つまり、一馬……お前は勇者としての力に覚醒したというわけか……。そりゃそうだろうなー! 俺達が勇者の力を、あの狂った女神に渡されていて、貴様だけに渡していない訳がないからな!」

「狂った女神?」


 内心、首を傾げる。

 そもそも俺は40歳を超えてから、異世界召喚されて、この世界に来たと言う事になっている。

 ただし、俺は、この世界に召喚された時に魔法陣を見ていない。

 学校では、俺を学生時代に、虐めという刑事事件を繰り返していた金子隆、皆月茜、高山浩二は、召喚された時に魔法陣が足元に出現したと言っていたにも関わらずだ。


「ああ、そうだ! あの金髪碧眼の一目見た時には、絶世の美女だと思わせた女神だ!」

「……」

「ハハハッ! 心当たりがあるようだな!」


 ――いや、まったく心当たりがないが?


「それは、タハティの事か?」


 光の女神にして魔神と双璧を成す光の創造神にして女神タハティ。

 それは、アルドガルド・オンラインの世界において魔神と戦った女神の名前。


「タハティ? 何を言っている? エウレカのことだぞ?」

「エウレカ!?」


 思わず俺は目を見張る。

 それは、光の女神タハティと対を為す魔神の名前――、魔神エウレカ……。


「どうやら、知っているようだな! 貴様も、女神エウレカから力を得たのだろう? 俺達にずっと隠していたとは思わなかったがな!」

「……金子。俺が一つ言いたいのは、お前達は俺を――、俺の気持ちを裏切ったと言う事だ。そして、それはお前らに復讐をする上で十分すぎるほどのものだ。何せ、俺を殺そうとまでしたんだからな」

「ああ? 実際、生きていたんだろう? ――なら! 問題はないだろ! その程度のことは水に流して俺達につけよ! あの狂った女神を殺さなければ気がすまないからな!」


 人に暴力を振るう、その行為に、まったく罪悪感を覚えない人間。

 魔神や女神に関しては思う所は多々あるが、そんなことは……、今はどうでもいい。


「なるほど……。少しでも謝罪の気持ちがあるなら、苦しまずに殺してやろうと思ったが……」


 俺の脳裏に3年間、こいつらに散々虐められた記憶が思い浮かぶ。

 それは凄惨なモノであり、高校を卒業して進路が違えたあとでも、決して消えない痛みとして残った。

 だから――。


「はっ! やっぱり女神の力を一番に受けたお前には話が通じないようだな!」


 自分勝手にほざく目の前の虎の表皮を持つ4メートル近い体高の魔物が、怒声を含め叫んでくる。

 俺は、それを真正面から受け止め乍ら口を開く。


「勝手を言う。貴様らのことを、俺は何度殺してやろうと思ったことか! お前達には、他者を貶め、傷つける行為は遊びだったかも知れないが……」


 俺は、金子を見上げ睨みつける。


「やられた方は、冗談じゃすまないからな……」

「――なら! どうするつもりだ!」

「決まっている! 貴様を――、金子! お前を他の2人と同じように未来永劫苦しむ地獄に叩き落してやる!」

「――っ! やはり貴様が! 一馬! 貴様が、皆月茜や高山浩二を殺したんだな!」

「殺してはいないが、地獄の片道切符を渡してやったぞ!」

「ああ、そうか――。貴様も魔王と繋がっていたってことか!」

「何を言っている?」

「煩い! 二人の仇だ!」


 虎の魔物と変化している金子は吠える。

 そして、身を屈めたあと、両足で地面を蹴りつけ瞬時に俺の間合いへと入ってくると同時に右拳を、俺の腹部に当て……、撃ち抜いてくる。


 とっさに交わしたが、その拳圧は、俺の後ろにいた地を這うアリゲーター数十匹を粉々に――、ミキサーに入れたかのように粉砕した。


「よく避けたが……次は当てる」

「そうかよ。――なら、かかってこい! お前の全部の力、俺が粉砕してやるよ」




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