第312話 異世界からの帰還(1)
翌日に向けての会話は食事をする中で話す内容ではなかったが、俺はエミリアとの今後のこともあり、必死に話を聞いたことで食べ物の味も満足に覚えていなかった。
食事を摂ったあと、用意された客間へと戻る。
「疲れたな……」
正直、明日の結婚式に向けて確認する内容が多すぎて疲れた。
途中からは、システムツールを立ち上げて、システム内のメモ帳に全部書き込んだくらいだ。
あとで見ておこう。
「カズマ、ここが空いていますよ」
ソファーに座ったエミリアが、自身の膝をポンポンと軽く叩きながら、こっちにおいでと手招きしてくる。
「お、おう……」
精神的に疲れていたこともあり、エミリアの座っているソファーに横になり、エミリアの膝に頭を乗せる。
「大丈夫ですか? カズマ。随分と疲れているようですけど……」
そう言いながら、エミリアは耳かきのための棒を手にしていた。
「エミリア、それは?」
「今日のカズマは、疲れていたようですので、耳かきで癒しを提供しようと思ったのです。明日は忙しいですから」
「そ、そうだな……」
とりあえず、エミリアが耳かきをしてくれるというのだから、ここは任せるとしよう。
俺が目を閉じるとエミリアが耳かきを開始する。
そして、俺と言えば疲れが溜まっているのか、すぐに寝てしまった。
「カズマ、カズマ」
何度も、俺の名前が呼ばれる。
それと同じくして体が揺さぶられ、ふと目を開けてみれば目の前にはエミリアの大きな胸が見えた。
「おはほう、エミリア」
「おはようございます。カズマ、寝ぼけているところ悪いのですが、お布団に行きましょう」
その言葉に、俺は耳かきをしてもらっている間に寝てしまっていた事に気が付き立ち上がろうとするが、エミリアの柔らかい大きな胸と、彼女から漂ってくる女性特有の甘い匂いに――、「あと5分」と、言葉を返す。
膝も肉付きがよくふわふわで寝心地は最高なのだ。
ここで起きるとか男ではない。
「もう! よく分かりませんけど、明日は、早いのですからベッドでキチンと寝ましょう」
「わかった」
まぁ、ずっと寝ているとエミリアが眠れないからな。
俺は渋々と膝枕を手放し下着姿になったあとに布団に入る。
「私はお風呂に入ってきますね」
「ああ」
本当はエミリアを待つと言うのが常識ではあったが、案の定、どのくらい寝たのかは知らないが、気が付けば俺は夢の中の住民となっていた。
夢の中の住人――、それが理解できたのは、俺の身体がワーフランド王国の空に浮かんでいたからだ。
「――な!? ――こ、これは一体!?」
夢の中でしかあえりない光景。
たしかに空を飛ぶ魔法はアルドガルド・オンラインには実装されていた。
それでも、ワーフランド王国だけでなく、その周辺国まで眼下に一望できるというのは……、そんな上空まで上がれる魔法は存在していない。
だからこそ、夢の中だと認識した。
それにしても……。
俺は眼下に見えるワーフランド王国の王都を見下ろしながら、ふと気がつく。
ワーフランド王国の王都の大通りの至るところで飾りつけられていることに。
「これは……、本当に夢の中の出来事なのか?」
そんなことを思っていると、視界内にウィンドウが開くと同時に脳裏に声が降ってくる。
――リンクを確立しました。
――システムを確認しました。
――システムエラーの復旧を開始します。
――対象のユーザーアカウントの認証を確認しました。
――強制ログアウトを開始します。
そう、ログがウィンドウに表示されると共に、俺の意識は闇の中へと落ちた。
――ピッ、ピッ、ピッと、機械音が鳴る音が聞こえてくると共に、俺は自然と目を開けた。
目を開けて周囲を見渡す。
そこは、どこか病室のような雰囲気を感じた。
「ここは……」
どこか擦れたような声が、自らの身体から発せられ――、自身の声が――、音が、自らの鼓膜を揺さぶる。
咄嗟に、何が起きたのかを確認するために体を動かす。
すると、何かに引っ張られるような感覚を覚えて、引っ張られた方向へと視線を向ければ自身の腕には、点滴が刺さっていた。
「何が……、何が起きた?」
一体、何が起きている?
そういえば――、
俺は、思い出した。
ワーフランド王国の上空に居た時に、「――強制ログアウトを開始します」と、言うログが視界内のウィンドウに表示されたことに。
「まさか!」
体に力を入れて、上半身をベッドから起こし、心電図と思わしき機器を取り外したあと、点滴を外し、俺は病室から出た。
病室から出れば、何人もの病院に入院している患者が廊下を歩いている姿が目に入った。
「一体……ここは……」
立ち尽くしていた俺は、現状を確認しようと思ったが――、
「――って! まずはトイレだな」
通路を見まわしてトイレマークがある方へと歩く。
男子トイレに入り、用を足したあと、俺は手を洗うために洗面台に向かう。
そして、手を洗ったあと、俺は顔を洗う。
まずは、気持ちを落ち着ける事と、頭を冷やすことが大切だ。
そして鏡の前に立ったところで、俺は動きを止めた。
「――こ、これは……俺か?」
洗面台――、その上の壁に設置されていた鏡。
その鏡に映っていたのは、異世界に召喚される前の40代の冴えない中年の男ではなかった。
そこに映っていたのは、どう見ても未成年の――、高校生だった頃の自分であった。
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