第311話 勇者ではないが?
「エミリア、そう突っかかるような言い方はするんじゃない」
「――え? カズマは、お母様の肩を持つのですか? あんなに邪見にされたのに!」
「そう言うな。女王陛下の立場からしたら臣下の手前言わないといけない場合もあるだろう?」
とりあえず、せっかく結婚式が間近に迫っているというのに、ゴタゴタは控えたいのでエミリアに語り掛ける。
するとブスーっとした表情になったエミリアは粗雑な動作で食事を無言で始めた。
「とりあえずだ、女王陛下。俺も、あんたに対しては個人的に見たら、思うところは無いわけではないが、一度、話は家臣・国民の前で決まっている。だから、細かく言う事はない」
「そうですか。それだけでも十分です。本当に、ご不快な気持ちをおかけしてしまい申し訳なく思っております」
「その謝罪だけで、今までのことは水に流すとしよう」
まぁ、俺が高校生の精神年齢だったら、根に持ったかも知れないが、こちらも40歳後半まで日本の競争社会で揉まれた人生経験がある。
よって相手のミスを許すという事も必要な場面がある事くらいは承知している。
だからこそ、水に流そうという話を提案したわけだ。
エミリアは、まだ20歳にもなっていない若さなので、俺みたいな政治的な判断は難しいだろう。
ここは、俺がエミリアからの怒りも含めて泥を被って母娘の調停役に徹した方がいい。
「ありがとうございます」
「気にすることはない」
話もひと段落つき、ようやくピリピリした雰囲気も緩和したところで、
「あの、カズマ殿」
「――ん?」
「私のことは、公の場では、女王陛下で構いませんが、私的な――、このような場ではグレースと呼んで頂いて構いません」
俺はチラリとエミリアへと視線を向ける。
彼女は、プイッと俺から視線を逸らす。
どうやら、俺が味方になると思っていて、そんな俺から梯子を外されるような形になってしまったことで、少し御怒り気味のようだ。
「わかった、グレースさん」
とりあえず、俺はエミリアの母親であり女王陛下の名前を私的の場では名前呼びする事を了承する。
まぁ、エミリアと結婚をする以上、俺も王族になるわけで、そうなれば俺が私的の場でも女王陛下の名前を呼ばない事は不仲説を作る可能性もあるわけで断るわけにもいかないというのが現実な訳だが。
「ありがとうございます。ところでカズマ殿。カズマ殿は、王墓について詳しいと娘から伺いましたが、ほんとうですか?」
「本当か、どうかと聞かれても俺はアルドノアの書庫で見たことを実践したに過ぎないからな」
「アルドノアですか……。あの勇者の儀式を行い魔族に寝返った勇者により滅ぼされた――」
「ああ」
俺は小さく頷く。
「そう致しますと、王墓に出現した魔物や拡張しモンスターが闊歩するようになったダンジョンについても大国アルドノアの書庫には、そのような事が記されていたという事でしょうか?」
「そうなるな」
俺は、肉を頬張りながら答える。
まぁ、実勢には嘘だが――、この辺、大国アルドノアが滅んで資料が灰燼に帰している可能性があると言うのは本当に助かる。
この辺は、俺をイジメていた連中に感謝だな。
「ただ一つ気になる点があるのですが……」
「何だ?」
「カズマ殿は、どうして大国アルドノアに滞在されていたのかと……」
おっと! そこに突っ込みを入れてくるか……。
俺が異世界から召喚された勇者だと知っているのは、エミリアとごく一部の連中だけ。
声高々に、今、俺が人間だと暴露するのはマイナス面でしかない。
何せ、俺は竜神って事で説明してしまったのだから。
「見分を広めていた。それだけのことだ」
まぁ、適当に言っておけばいいだろう。
どうせ事の真偽なんて、他の連中には分からないことだろうし。
何よりも俺がドラゴンに変身した姿を目の前で見ているのだから、人間としてと説明するよりも、それなりの「見分を広めていた」という、知見を楽しみにしている竜族の設定を流用した方が相手も納得するはずだ。
「そうでしたか……。不躾な質問、申し訳ありませんでした」
ほら、何となく通った。
「気にすることはない。誰でも気になる点ではあるからな」
メイドが取り皿に盛ってくれた皿を受け取りながら答える。
「それよりも俺から聞きたいことがあるんだが」
「はい。何でしょうか?」
「明日までに間に合うのか? 結婚式の準備とか」
「その点に関してはご安心ください。すでに婚礼の儀式は済ませているのは確認していますので、明日は、それを有力な諸侯に喧伝すればいいだけですので」
「つまり、そこまで堅苦しいパーティなどは……」
「とくにはありません。ワーフランド王国の王都内パレードに参加して頂き、姿を王国民に知らしめてもらい、そのあと教会にて口づけを交わして頂くというだけですので」
「なるほど……。それなら問題なさそうだな」
人前でキスというのは、少し引っかかるが、それは許容範囲内のことだ。
「それではあとの細かいことは――」
そう女王陛下は、口を開いた。
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