第310話 会食

 エミリアも戻ってきて、メイドが淹れてくれた紅茶でまったりと時間を費やしていると、居間のソファー上で横になっていたリオンが立ち上がった。


「マスター」

「どした? リオン」


 俺の元まで歩いてきたリオンが、紅茶を嗜んでいた俺の横に座る。


「よく知らない気配が増えている」

「知らない気配?」


 コクリと頷くリオンに、俺は首を傾げる。

 それと共に視界内のカーソルを意識的に動かしログを確認するが――、何かしらの影響があったというログはない。


「どういう気配だ?」

「モンスターのようでいてモンスターじゃない気配」


 ハッキリとしない感じで答えてくるリオン。


「距離は?」

「場所は、ハイネ」

「かなり距離があるな……」

「そう。でも、元々は妾が拠点としていた場所だから」

「何か異常があれば分かるってことか」

「そう」

「ふむ……」

「マスター?」

「分かった。今度、こっちの問題が解決したら様子を見に行ってみるか」

「ありがとう、マスター」

「ご主人様、我の領域もおかしな事になっているようじゃ」

「お前の所って言うと、ドラゴンケイブだったな」

「流石は、ご主人様」

「どうしたの? カズマ」


 そこでベッドで横になっていたエミリアが俺たちが集まっている事に気が付くと俺の対面の椅子に座り話しかけてきた。

 

「イドルとリオンが管理している領域で何かおかしな事が起きているらしい。原因は分からないが」

「そうなのですか……。でもリーン王国が許可を出すか……」

「あーたしかに……」


 ちょっと、ほーんのちょっとだけシルフィエット王女とゴタゴタが先日、起きたばかりだからな。

 

「国内への入国を拒否してくる可能性もあるってことか」

「可能性は低くはないかと」

「だよな……」

「はい。あとは冒険者ギルドから依頼を受けてという手段に関しても――」

「基本的に、冒険者ギルドは国の管轄だからな……」

「はい。たぶん、今回の件で締め付けが強くなると思いますから」

「――ということでイドル、リオン。すぐに対処は出来なさそうだ。本当に手が付けられなくなったら依頼は来ると思うから、それ待ちだな」

「分かりました。マスター」

「了解じゃ、ご主人様」


 それにしても二人の領域で、問題が起きるとか……。

 それってアルドガルド・オンラインがサービスを開始した当初に始まった四属性イベントである『四精の禍』みたいだな。


 ――コンコン


「はい。どうぞ」


 エミリア、イドル、リオンと会話をしていると、部屋の扉がノックされた。

 許可をすると扉を開けてメイドが入ってくる。


「女王陛下が夕食を一緒にとのことです」


 思わず、俺はエミリアの方を見る。


「行きましょう、カズマ」

「いいのか?」

「招待されただけですから」

「まぁ、それはそうだな。これから王城で暮らすことになった時に、女王と不仲だと色々と面倒だしな」


 俺とエミリアとの会話を聞いていたメイドは、表情こそ崩すことはなかったが内心、色々と考えていたのかもしれない。


「それでは、ご案内致します」


 案内されたのは以前とは違った食堂であった。

 何と言うか華美ではなく、質素と言った感じが見受けられる扉がまず目に入る。

 扉を開ければ、部屋の中央には大き目のテーブル。

 そしてテーブルの上には大皿が20皿近く並べられていて、料理がこれでもか! と、言うほど盛られていた。

 すでに女王陛下は、長テーブルの端に座っていて――、


「待っていましたよ?」

「この部屋を使われるなんて、女王陛下は、カズマを私の伴侶として認められたという事ですか?」

「どういうことだ?」

「ここは、家族だけで食事をする部屋なのです」

「なるほど……」


 つまり外部の人間を歓待する食堂と、家族用の食堂は別ということか。

 そういえば、獣人族には、そういう作法がるとアルドガルド・オンラインのオフィシャルガイドブックには設定資料として書かれていたのを見かけたことがあったな。


「どうぞ。お座りください。竜神様」

「カズマでいい」

「そうですか。それでは、カズマ殿」

「失礼する」


 俺は、女王陛下に促されるような形で椅子に座る。

 そして、エミリアも俺の横に椅子を持ってくると座り――、


「イドルとリオンも同席しても問題ないか?」

「もちろんでございます」


 そう女王陛下は返してくる。

 まぁ国の守護として崇めているイドルとの食事同席を断ってくるわけもないから、想定の範囲内でもある。


「ご主人様。我は、椅子に座らなくても問題ないのじゃ」

「妾も!」

「イドルだけじゃなくてリオンもか」


 まぁ二人とも、皿に盛られている料理を見て飢えた狼のようになっているから座るという余計な動作はしたくはないんだろうな。


「二人は、立食形式でも問題ないか?」

「もちろんです」


 二つ返事で女王陛下は許可を出す。

 まぁ、断るという選択肢はないんだろうな。

 あと、彼女は近くのメイドを呼びつけると料理を追加で運んでくるようにと命じている。

 

「――では、女王陛下のせっかくのご厚意だし、飯にするか」


 食事を始めたところで、


「女王陛下。このような場を婚礼前日に設けたのは何か理由があるのですか?」


 ――と、エミリアが口火を切った。

 


  


 


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