第309話 衣装作りも大変だな!

「そこまで言うのならいいわ! 本職の力を見せてあげるんだからっ!」


 メジャーを取り出し俺へと見せてくる髭ズラなおっさん。


「――いや、普通に触らせねーから」


 メジャーを手に俺に近づいてくる髭面なおっさんから俺は距離を取るが――、


「待ちなさいよ! 明後日の婚礼で恥をかいてもいいの!?」

「恥だと?」

「そうよ! 貴方の妻は、今頃、細かな手直しをしているはずよ! ドレスのね! それを貴方は許容しているはず! なら、貴方も我慢するべきではないかしら?」

「……だけど、おっさんだろ……」


 俺はメジャーを両手に――、トンファーのように持ち構えているおっさんに向けて話しかける。


「別にいいじゃないの!」

「はぁー。わかったよ……。仕方ないな」


 まぁ、エミリアが我慢をしているのなら、俺も我慢しようじゃないか。


「納得してくれて何よりだわ!」


 いかつい体をくねらせて接近してくる熊耳のマッスルな男に、俺は思わずウィンドウショットをブチかまして吹き飛ばした。

 途端に、男の身体は風の魔法で吹き飛ばされ部屋の調度品を巻き込みながら、部屋の大きな窓をぶち破ったあと、下へと落ちていった。


「あっ――」


 思わずテラスへと駆け寄り下を見ると、テラスの下には池があり、そこには、熊の耳をつけた2メートル近い、大男が浮かんでいた。

 死んでなくて何よりだ。

 それよりも、顔を池の水面側に向けている方が問題だ。


「雷属性魔法サンダー!」


 死なれても困るからな。

 とりあえず、魔法でショックを与えて目を覚ましてもらうとしよう。

 俺が発動した魔法は、空に暗雲を作り出し、瞬時に雷を発生させると、熊のおっさんが浮かんでいる湖に落ちる。


「アバアババババアババババ」

 

 シューという音と共に裏返るおっさん。

 そして、池の中からガバッ! と、立ち上がると、池の中を転がっていき、池から這い出ると吐いていた。


「ふう。死んでなくて何よりだ」


 とりあえず、最善手は打った。

 だから、部屋の中にいる針子たちに言いたい。

 俺をそんな風に怯えた目で見なくても良いのではないのか? と――。




 しばらくすると、煤やけた熊の耳を生やした2メートル近い筋肉ムキムキのおさっさんが部屋の中に飛び込んできた。


「あなたね! 死ぬところだったわ!」

「だから蘇生させただろ」

「蘇生って! あの魔法って、高位の雷系魔法じゃないの! 私じゃなかったら死んでいたからねっ!」

「そのへんは大丈夫だ。死ぬギリギリで回復魔法かけるから」

「ひどっ! この人、こわっ!」

「それよりも時間がないんだろう? さっさと採寸した方がいいんじゃないのか? あと、過剰に触れるなよ?」

「分かっているわよ!“」


 お姉言葉を使ってくる大男は、俺の採寸を素早く終わらせる。


「なるほど……。貴方、見た目よりもずっと引き締まった体をしているのね!」

「それが何か問題でも?」

「違うわ。これなら、殆ど手直しは必要ないって思っただけだから」

「そうか。なら間に合うのか?」

「ええ!」


 満足そうに頷く、お姉キャラに採寸されたあと、俺は何もすることがなくなり部屋を出た。


「はぁ、疲れた……」


 まったく、変な奴に絡まれたものだ。

 昨日の変な異世界から来た奴といい、精神的に疲れる案件が続いているな。

 王宮内を歩き、途中で他国の要人や、リーン王国のシルフィエットの視線をやり過ごしつつ、俺は宛がわれている部屋に無事に到着する。

 部屋を警護している近衛兵女騎士をスルーし部屋に入ればリオンとイドルが思い思いの恰好で室内で寛いでいた。


「ご主人様。随分とお疲れのようですが――」

「ああ。結婚式で男が着る衣装の確認と調整のための採寸をしていたんだ」

「マスターの?」


 イドルが、ソファーの上で寝転がりながら、聞いてくる。


「ああ。それよりも、お前たちには話は来なかったのか?」

「我々は竜族ですので、とくにそのようなモノは必要なくても大丈夫です」


 イドルが自信満々に答えてくる。


「そうなのか?」

「はい。魔力で衣装は作ることはできますから」

「そういえば、俺が作った衣装以外を着ている時もあるよな。その時は、自分達の魔力で作っていたのか?」


 俺の問いかけにイドルとリオンがコクリと頷く。

 それは随分と楽でいいな。

 俺も是非、そういう楽な魔法というかスキルが欲しいものだ。

 やる事もなくなり、精神的に疲れた俺は部屋のキングベッドで横になると目を閉じた。

 しばらくすると、体が揺さぶられる。

 目を開けてみれば揺さぶった相手はエミリアであった。


「エミリアか……。戻ったのか?」

「はい。カズマも、今日は衣装合わせをしたと伺いました」

「ああ。結構、独特な雰囲気のやつがきたな……」

「クマキチさんですよね? あの方は、ワーフランド王国でも、有名な方で、彼の経営する衣服店は、代々、王室と上級貴族御用達とされているほどなんです」

「そうなのか……」


 正直、どのくらい凄い人物なのかさっぱり分からないが……。

 まぁ、エミリアがすごいというのだからきっとすごいのだろう。


「それでエミリアもドレスの手直しは終わったのか?」

「――いえ。これから手直しをするとのことですので針子さんは、かなり大変だと思います」

「そうか」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る