第248話 王城での謁見(5)
「――うっ! そ、それは……」
「もういいから、さっさと人間に変化しておけ」
「分かりました」
地竜に戻った時のように、砂塵が舞い上がり砂の竜巻が消えた場所にはイドルが立っている。
「まったく……。余計な問題ばかり起こすな。リオン、イドル。俺が許可出すまでは、ワーフランドへの手出しは容認しないからな。もし破ったら、お仕置きするからな」
「――了解しました。マスター」
「了承しました。主様」
「――ってことで、クレア殿」
「――ひ、ひゃい!」
俺に話しかけられたクレアは、失禁しながら後ろに後退る。
彼女の、犬のような茶色のふさふさの尻尾に至っては、だらんと降伏を示すかのように力なく垂れ下がって床の上に横になっている。
「大丈夫か?」
頭を心配になるほど前後にブンブンと振って肯定――、問題ないと答えてくる。
「それは良かった。立てるか?」
「そ、それは……」
「腰が抜けたのか?」
俺の問いかけに、頬をカーッと赤く染めていくクレアという女騎士。
とりあえず他の女騎士に運んでもらおうと周囲を見渡すが、他の3人の近衛騎士団の女騎士達も床の上に膝から崩れおちていて、全員が失禁していた。
「こ、これは……」
思わず、俺は額に手を当てる。
絶対に誤解を生む。
「一体っ! 何が起きたというのだ!」
ほら! 遠くから叫び声が聞こえてくると同時に、多くの金属音が擦れる音が聞こえてくるし、
「――まったく面倒なことだ」
「カズマ。ここは私が何とかします」
「悪いな。エミリア」
「いえ。もともと、カズマを――、私の旦那様を否定したのが始まりですから。それは、王杯に対する非礼ですし、侮辱です。王族に連なる者を蔑ろにする行為は、許されることではありませんから」
「エミリア。お前は一人じゃないからな。本当に、どうしようもないと俺が判断したら、その時は、俺と一緒に――」
「分かっています。カズマ、期待しています」
「ああ……」
俺は肩を竦める。
そこで、30名近い統一された鎧を纏った獣人たちが姿を見せる。
その中で、一人の獣人が歩み出てくる。
剣の柄に施された繊細な彫刻。
他の獣人には見られない上等な身なりからして、おそらく、それなりに格が高い人物というのは想像がつく。
「これは、どういうことか?」
失禁し腰を抜かし座り込んでいるクレア達へ視線を向けたあと、獣人は俺へと視線を向けてくるが、すぐに無言になる。
そして、いきなり膝をつく。
「これは、エミリア様! お戻りになっているとはお聞きしておりましたが、女王陛下の護衛から離れることが出来ずに挨拶に迎えなかった事、申し訳ありません!」
「よいのです、表をあげなさい」
「はっ」
「さて、レイブン。近衛騎士団の素行の悪さは、貴方の指導がなっていないのではなくて?」
唐突に、そんなことを言われたレイブンという獣人は、すぐにエミリアが何を言いたいのか思い言ったのか頭を下げる。
「申し訳ありません」
「何を謝っているのですか? 私が、何か指摘しましたか? それとも思い当たる節があるのですか?」
うわ! 結構、えげつない話の持って行き方するな。
「――そ、それは……」
「つまり、普段から素行に問題があったと自身で白状しているようなモノです。違いますか? レイブン」
完全に相手をやり込める方法で会話を立てているな。
「女王陛下直属近衛騎士団総隊長レイブン。クレアは、私が何度も注意したにも関わず、旦那様であるカズマを侮辱しました。それは、許されることではありません」
「そ、それでは……」
「それは、私の旦那様に聞くといいでしょう」
また変なところで俺にバトンタッチしてくるな。
まぁ、裁きを下して欲しいってことか。
さて……どうしたものか。
「そうだな。今後、失礼な態度を取らなければ問題ない。俺としては、エミリアの故郷でゴタゴタを起こすつもりはないからな」
俺はエミリアの方を見る。
彼女は、一瞬、微笑むと――、
「レイブン。カズマからの言葉です。今後は近衛騎士団の質を高めるように邁進するように」
「分かりました。お前たち、クレアを筆頭とした者たちを医療室へ運べ」
レイブンの指示で、クレア達は連れていかれる。
そんな後ろ姿を見送ったあと、レイブンが口を開く。
「エミリア様」
「何かしら?」
「この場に、地竜様が姿を現したと伺いました――」
「ええ。そうね」
「そうでしたか! それでは、地竜様に願いどころか直接、守護を頂けるという契約を結ばれたのですか?」
「それは違うわ」
「うむ。我は、主様! カズマ様の僕であり、第三夫人である!」
「あの……エミリア様。こちらの方は?」
「イドル様。地竜ウェイドルザーク様ですよ」
「――で、では……」
「ええ。こちらのカズマが私の旦那様で! 地竜イドル様の主であり、水竜エイブリオンのリオン様のマスターです」
「そうじゃな! 妾は! 四大属性竜の一角! 水竜エンブリオンじゃ!」
幼女姿で青いワンピースを着たリオンが、まったく! 無い! 胸を強調して誇らしげに口にする。
「え? ――ち、地竜様に……、水竜様?」
凍り付いたかのように呟くレイブンを見ながら、俺はだからリオンとイドルのことは隠しておきたかったんだが……と、心の中で呟いた。
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