第247話 王城での謁見(4)

 俺が、ツッコミを入れると同時に、ガシャッ! と、言う金属音と共に、俺に腕を伸ばしてきていた獣人の女が石畳の上に倒れ込む。

 

「――うっ……。カハッ!」


 獣人の女は、過呼吸状態に陥っており、自身の喉の手を当てている。


「どうした! エイダ!」


 唐突の事に、エミリアを先導していた近衛騎士団団長のクレアがエイダと呼ばれた獣人の女の元へと駆け寄ると座り込み容態を確認するが――、


「何だ? これは……。何が、起きた?」


 何が起きたのか理解できてないクレアが、周囲を見渡すが、そこに居るのは俺とイドルとリオンだけ。

 そんな状況で、エイダと呼ばれた女騎士の顔色が青くなっていく。

 どうやら、呼吸も満足にできないらしい。

 そんな容態を見て――、


「おい、リオン。威圧を解除しろ」

「分かりました。ただ、マスター、獣人如きがマスターにたてつくのは問題かと思われます」


 その発言に俺は思わずため息をつく。

 リオンは、俺に悪意を抱いた獣人の女騎士に向けてスキル「威圧」を使っていた。

 それは相手の行動を阻害するスキルではあったが、レベル差がありすぎる場合、相手のステータスにバットステータスを付与することができる。

 下手をすると、即死するまであるスキルであったが、一応、近衛騎士と名を打つだけあって死ななかったのは助かった。

 こんな場所で、獣人が死んでいたら大問題になっていたはずだからな。


「リオン」

「はっ! 申し訳ありません」


 幼女姿のリオンは、頭を下げてくる。

 そして、床に倒れ込んだエイダという獣人の女騎士に歩み寄る。


「それ以上は、近づかないでもらおうか!」


 近衛騎士団団長クレアが、リオンの歩みを静止しようとするが、リオンがクレアを一瞥しただけで、彼女は氷ついたかのように体が動かなくなる。

 俺は、それを横目で見ながら、


「リオン」

「はい」

「それ以上、威嚇をするな。威圧もな。一応、ここはエミリアの故郷だ」

「ですがマスター! この者に、妾は注意をしようとしただけです」

「こんなレベルの低い騎士を相手にしても仕方ないだろう?」

「……ですが……」

「命令だ。すぐに、近衛騎士団――、お前の前に立っている女に対しての威圧を解除しろ」

「……分かりました」


 リオンが、応じるのと同時に、クレアは膝から崩れ落ちる。

 そして、エイダという獣人は意識を失ったの過呼吸こそ正常だが、糞尿を垂れ流していた。

 まぁ、そりゃ首を攣って死ぬと糞尿などを垂れ流すとよく聞くから、それと同じ状態に置かれたのだから仕方ないよな。

 それにしても、いきなりカオスな状況になったな。


「はぁー、クレア。私は言ったはずよね? カズマは、私の旦那様だと。失礼な言動、態度は控えてもらえるかしら?」


 未だに、体を自由に動かせないのかクレアは「申し訳ありませんでした。カズマ殿、ご迷惑をおかけしました」と、反抗的な目で俺を睨みつけながら謝罪してきたが、それは謝罪とは言わないんだがな? と、思ったが口に出すような野暮な事はしない。

 一応、エミリアの故郷だし、そのへんは俺も迷惑をかけないように弁えているつもりだったがリオンとイドルには関係ないようだ。

 まぁ、リオンもイドルも俺への忠誠心はアホほど高いからな。


「今度、妾のマスターに無礼な態度を働けば、国ごと消えることを覚悟するとよい!」


 リオンが、クレアに向けて忠告する。

 

「うむ。その時は我も、ワーフランド王国の守護から外れるとしようか」


 黙って事の成り行きを見守っていたイドルが、そんなことを口走る。

 

「――し、守護だと……? 何の話を――」

「やれやれ我が、このような姿に化身しているだけで、汝らの崇拝している竜を感じることができぬとは……、随分と種族レベルで耄碌したものよのう」


 イドルが、一歩ずつ俺たちから離れながら王城の少し開けた中庭へと歩いていく。

 そして屋外に出たところで砂塵と共に、一匹の巨大な10メートルを超す地竜が、その姿を見せた。

 

「――あ、あああ……」


 近衛騎士団団長クレアは、未だに腰が抜けているのか眼前に突如! 出現した地竜を見上げながら、歯をガチガチと鳴らしている。

 さらに、鎧の下部――、スカートの部分が濡れてきたかと思うと、床に小さな水たまりを作る。

 これは、あれだな……、所謂失禁というやつだ。

 それにしても失禁二人目か。

 なんだか更にカオスになったな。


「ま、まさか……、地竜様」

「そうだ! 我の主様であるカズマ様に対して無礼を働くとはどういう了見だ! 奥方様が、何度も警告したであろう?」

「――も、申し訳ありません」


 失禁しながら、土下座を敢行する近衛騎士団団長。

 さらにガタガタを体を震わせながら――、


「まさか……地竜様が起こしになられているとは思っても――」

「我に謝罪は不要。主様に対して敬意を払え! よいな?」

「はっ!」

「今回のことは、主様が寛大な心を持っているから許すが、今度、同じような事があればどうなるか理解はしているであろうな?」

「もちろんでございます!」

「主様。この程度で如何でしょうか?」

「そこで俺に振るのか? 俺は、もっとお淑やかに静かにしてろって言ったよな? 竜に戻っていいとは一言も言ってないよな?」



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