第246話 王城での謁見(3)
「よかったって……」
俺の安堵とは逆に、深刻そうな表情で語るダリア。
おそらくだが人間だったら顔面蒼白という言葉が似あっていたのかも知れない。
まぁ、ウィアウルフだから顔も獣毛に覆われているから、それは叶わぬ願いだったが。
「――か、カズマ殿。少し待っていてもらえますか?」
「ああ。エミリアの母親に報告をしてくるってことか?」
「はい」
ダリアは、幌馬車から降りたあと、眉間に皺を寄せたまま近くの兵士に何かを伝えると共に城の中へと入っていく。
そんな後ろ姿を見送ったあと、俺はエミリアの方を見る。
「一応伝えて大丈夫だったんだよな?」
「はい。いきなり謁見の間に伺うよりはマシかと思います。できれば、もう少し早く親書か書簡なりを送って出迎えの準備を国側に取らせた方が良かったと思いますけど、事が事だけに仕方ないです」
「だよな」
そしてダリアが城の中へ姿を消してから10分ほど経過したところで、幌馬車の中でダリアが帰ってくるのにも飽きつつあった俺たちに「マスター。先ほど去っていた獣人が戻ってきました」と、リオンが御者席から天幕を開けると話かけてきた。
「そうか」
そう言葉を返し幌馬車から降りる。
そこには、ダリアだけでなく銀色の鎧を身に纏った犬族の人の容姿に近い女性が5人立っていた。
「カズマ殿。お待たせしました」
そうダリアが話しかけてきた途端に、銀色の鎧を着た女性達が一斉に俺を睨みつけてくる。
中には殺気を含んだ視線を向けてくる者もいた。
「ああ。――で、話し合いはどうなったんだ? このまま謁見の間に向かえばいいのか?」
「――いえ。その前に、女王陛下が、王女殿下にお会いしたいとのことです」
「つまり内々に顔合わせと謁見の間で行われる話し合いの内容を事前に打ち合わせしておきたいということか」
俺の問いかけに、ダリアは答えはしなかったが小さく首肯してきたので、当たらずも遠からずと言ったところなのだろうなと納得する。
「エミリア」
「はい」
俺が名前を呼ぶのを待っていたかのようにエミリアが、幌馬車の中から姿を見せる。
途端に、女騎士達から「「「「「姫様!」」」」」と、言う声が聞こえてくる。
エスコートは、俺がすることにしてエミリアを幌馬車から下ろしたところで――、一斉に女性騎士達が片膝をつく。
「ご無事で! 本当に、ご無事で何よりです! 姫様を――、エミリア様を捜索に出かけたダルアも、これで……思い残すところはないでしょう!」
何だか死んだことにされているが、アイツは普通に生きているからな! と、言うツッコミをしたかったが、女騎士達が、嗚咽しているところで、そんな感動な場面で余計な一言を言うほど、俺は無粋ではないので黙っておくことにする。
「なあ、ダリア」
「何だ? カズマ殿」
「あの女たちって、何なんだ? 鎧を着ているし規格は統一されていてエミリアを知っている事から、それなりの地位の騎士だってのは分かるが」
「彼女らは、王宮の近衛兵たちだ」
「ほー。女性がメインの騎士団か」
「――いや、処女宮に主に任務についている女性の王族に対して忠誠を誓っている騎士達だ」
「なるほど……」
たしかに女性で悩みがあったら、異性に話せないこともあるからな。
そこらへんは配慮されているということか。
それにしても俺に向けての敵意が半端ないな。
「皆の者には、心配をかけました。このエミリア、今、帰国致しました。それと、クレア」「はい」
「あなたは、近衛騎士団団長であるにも関わらず、私の旦那様へ殺気を向けている騎士に対して何も思うところはないのですか?」
「――も、申し訳ありません! きさまら! 姫様を、この国まで安全に届けてくださった客人になんと無礼なことを! ワーフランドの騎士たるもの! 恥を知りなさい!」
女騎士達に、クレアと呼ばれた犬族の獣人――、人に犬の耳が生えただけの半端な獣人だが、そんな獣人が部下に不備を指摘するが、そのクレアってのが一番! 俺に敵愾心を向けてきていたんだがな……、――と、言うツッコミはしない。
「分かってくださればいいのです。それで、お母様はどちらで待っていると?」
「軍議室でお待ちしているとのことです」
近衛騎士団団長クレアの言葉に俺は首を傾げつつも納得する。
軍議室は、室内の話が外に漏れないように防音や魔法に対して特に警戒して作られている。
それは、どこの国でも共有なこと。
「分かりました」
「それでは、案内致します」
クレアが立ち上がり、エミリアをエスコートするかのように歩きだす。
そして、俺もエミリアに付いて行こうとしたところで――、「あなたは、此方で待っていてもらえますか?」と、別の女性近衛騎士が威圧的なモノの言い方で話しかけてくる。
「――だが! 断る!」
俺は、シカトしてエミリアに付いていく。
もちろん、俺をエミリアに近づけたくないのか女獣人が俺に手を伸ばしてくるが――、
「無礼者」
――たった一言。たった一言で、俺に食い下がろうとしていた女騎士が固まる。
「まったくマスターに触れていいのは妾だけだというのに」
俺はリオンに、そんな特別な許可を出した覚えはないんだがな!
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