第245話 王城での謁見(2)
「カズマ殿、どうかしましたか?」
幌馬車から降りたところで、外で待っていたダリアが話しかけてきた。
「今、連れが着替えているから、少し待っていてくれ」
「連れですか? 分かりました……」
「そういえば、ワーフランドのお姫様が行方不明らしいが話は聞いているか?」
「――! そ、それは……」
俺の問いかけに顔色を露骨に悪くするダリアに、顔芸は苦手なんだなと、俺は心の中でツッコミを入れつつ、エミリアの事については先に話しておいた方がいいと考え――、
「ダリア。少し秘密の会話をしたいんだがいいか?」
「秘密のですか? それは企業秘密の?」
「まぁ、そんなところだ」
「分かりました」
ダリアが視線だけで、同行していた兵士たちに距離を取るように指示を出し、俺たちから距離がある程度離れたところで、
「それで、秘密の会話とは、なんでしょうか? そ、それは……、もしかして――」
「そっちも隠していることがあるんだろう?」
「――ッ!」
まぁ、ダルアが姫様探索隊を率いていたから、そのへんは大体理解はしていたが、実際、獣人国がエミリアの探索を秘密裏に行っていたところを見ると、色々と隣国との摩擦を含めて問題が山積みなんだろうな。
「ダリアたちには朗報かも知れないが、ワーフランドの第一王女殿下のエミリアを保護して連れてきている。本当は、謁見の時まで隠しておくという方法も考えたが事前に王宮側に連絡をしておいてもらった方が良いと思ったんだが、どうだろうか?」
「――そ、それは本当なのですか?」
「ああ。本当だ」
今更、嘘をついて何になると言うのか。
「――わ、分かりました。すぐに女王陛下へ報告に行って参ります。しばらく、こちらでお待ち頂けますか?」
「分かった」
ダリアは走り出そうとしたところで、足を止める。
「カズマ殿」
「何だ?」
「――できれば一目! 王女殿下に、お目通りすることは可能でしょうか? もし違った者でしたら、それこそ女王陛下をぬか喜びさせてしまう事になりますので」
「そうだな……。少し待っていてくれるか?」
今は、イドルに手伝ってもらってエミリアは着替え中のはずだ。
そしてエミリアの裸を見ていいのは俺だけ。
幌馬車に近づき――、
「エミリア。ダリアが、お前の姿を一目見たいと――、確認したいと言っているがどうする?」
「――え? どうしてですか?」
「謁見の間に向かう前に、お前の母親に事前にお前が無事で俺が保護しているという報告をしてもらって、心構えをしてもらおうと思ってダリアに話したんだが、どうだろうか?」
「そ、そうですね。分かりました。あと少しで着替え終わりますので、お待ちください」
「分かった」
俺はジェスチャーで、ダリアに許可が取れたことを知らせる。
そして、少し待っておいてくれとも目で訴えかける。
――そして10分ほど経過したところで、
「カズマ、いいです」
「分かった」
幌馬車から離れてダリアに近づく。
「カズマ殿、用意はできましたでしょうか?」
「ああ。来て欲しいそうだ。着いてきてくれ」
ダリアを連れて幌馬車の中へと移動する。
御者席を通りすぎて幌馬車に入ったところで、ダリアが――、
「――ひ、姫様……、姫様っ! ご無事だったのですね!」
「え、ええ。ダリア、心配をかけたわね」
いつもとは雰囲気が些か違う――、少しお淑やかなエミリアが、そこには居て――、俺が作ったドレスを含めた装飾品がエミリアの銀色の髪色とマッチして天使のように、俺の目には映った。
「完璧だ……」
さすが、スキルの恩恵はでかい。
銀色の艶のある輝くような髪は腰まで伸びており、それがまた純白のドレスとよくマッチしている。
さらに、赤銅色のブレスレッドや、金色のネックレスにイヤリングが、エミリアの魅力を最大限に引き出していて尊いまである。
「カズマ……さん。どうかしら?」
「パーフェクトだ! さすがは、俺の嫁!」
「はい!」
頬を朱色にして、微笑んでくるエミリア。
それに反して凍り付くダリア。
「――あ、あの……。姫様……」
「どうかしたの? ダリア」
「い、いま……。カズマ殿が、姫様のことを嫁と――」
ひどく狼狽した様子でダリアは、一言一言、確かめるようにして言葉を口にするが――、
「あ……」
そこでエミリアが、口元に手を当てる。
「おほん。ダリア、この方は――、カズマは私の旦那様です」
空気がピシッと疑似的に聞こえるほど張り詰めるのが何となく分かる。
壊れた機械のごとくギギギッと言う音が聞こえるくらいゆっくりと、エミリアから俺に視線を向けてきたダリアは、
「そ、それは……。……カズマ殿が、姫様の夫だという事は本当なのですか?」
「ああ。本当だ」
まぁ、いまさら隠し立てするのも変なモノだからな。
この際だから、女王陛下にも、前もって伝えておいてもらった方がいいかも知れない。
「――で、本物のお姫様だって確認はできたのか?」
「あ。ああ……。たしかに――、間違いなく――、我らが獣人王国ワーフランドの第一王女殿下エミリア・ド・ワーフランド様に間違いない」
「それは良かった」
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