第249話 王城での謁見(6)

「ああ、なんだか……あれだな。コイツは水竜で、こっちが地竜だ。別に隠しておくつもりはなかったんだが、ゴタゴタするのは目に見えていたからな」


 俺は、とりあえずレイブンに話しかける。


「――そ、そうですか……」

 

 もう殆ど苦笑い状態のレイブンに簡単に事情を説明するが、細かいところまで報告するつもりはない。

 下っ端に細かい事情を説明したところで意味はないし、何しろ女王陛下――、エミリアの母親が待っているからだ。


「ああ。それよりも女王陛下を待たせてしまっているがいいのか?」

「――あ!」


 そこで、ようやく今の現状を理解したのか、レイブンは口を開く。


「分かりました。すぐに案内致します」

「よろしく頼む」


 クレアとバトンタッチするように、俺たちの先導をするレイブン。

 時々、真っ青な顔をしてリオンとイドルの方を何度も振り向き見てくるが、そこまで警戒されなくてもな。


「カズマ。完璧な手腕でしたわ」

「そうか?」


 そして、俺の横を並ぶようにして歩いているエミリアと言えば花が咲くような笑みを俺に向けてくる。


「はい! カズマを馬鹿にされてスカッとしました」


 一国のお姫様の言葉とは思えない。

 まぁ、エミリアらしいと言えばらしい発言で俺も少しは気分は晴れたが。


「こちらになります」


 そう言って案内されたのは、普通の部屋と言うと語弊が出るが、扉の大きさは普通であった。


「エミリア、ここは?」

「軍議室ですね」

「ほー。ここが……思ったより普通だな」


まぁ、扉の前に兵士が20人近く居るところは普通ではないが……。

 俺たちが見ている前で、レイブンが扉をノックし「レイブンです。エミリア様と、Sランク冒険者のカズマ様を連れて参りました」と、扉の中で待っている人物に対して話しかける。


「入ってもらって」


 扉越しに澄んだ声が聞こえてくる。

 そして、レイブンが俺を見てきたあと、「くれぐれも無礼の無いようにお願いします」と、低姿勢に頭を下げてくる。

 理由は、おそらくだが、俺の後ろでリオンとイドルが睨みを利かせていたからだと思う。


「分かった。――では、行くとするか」

「――それでは、カズマ。先に扉をどうぞ」

「いいのか? エミリア」

「はい。私は、この場には居ない扱いになっていると思いますから」

「そうか」


 まぁ、エミリアが、それでいいのなら良いんだが。

 エミリアを見て俺は頷いたあと扉のノブを回し扉を開けていく。

 思ったよりも軽く、一切、音が鳴ることない。

 扉を開け、中に入れば円卓会議でよくみるような丸いテーブルが部屋の中央に置かれており、そのテーブルの反対側――、俺たちの位置から見たらテーブルを挟んだ向かい側に一人のドレスを着た女性が座っていた。

 年齢としては見た目は、30歳前後? ――いや、20代後半でも通じるくらいに若く見える。

 ただし、目の下には黒い隈が薄っすらと浮かんでいて、寝不足だというのは一目で看過できた。

 全員が部屋に入ったところで、室内には俺たちと20代後半の美女と、最初から室内に立っていた獣人の女騎士だけになる。


「話は伺っております。どうぞ、お座りになってください」


 扉が閉まり、数秒後に、先に相手から話かけてくる。

 まずは相手が主導権を取る形となったが、別に、そのへんはどうでもいい。

 それにしても、じつの娘と久しぶりに会ったというのに、随分と冷静なモノだな。

 

「イドル、リオン。二人とも椅子に座っておけ」

「マスター。妾は、このままで」


 リオンは、部屋の壁まで移動すると壁にもたれ掛るようにして此方へと視線を向けてくる。

 そして、イドルも同じくリオンの隣に佇み壁の花を化す。

 仕方なく、俺は一人、椅子に座る。

 エミリアも、俺に習って隣に座ったところで――、お茶が運ばれてくる。

 

「――さて、今回の対談は非公式な事という体で、考えて頂いてよろしいかしら?」

「ああ。構わない」


 そもそも、相手に公式の場でエミリアをどう扱うかという事を事前に報告していない落ち度はこちらにあるし、何よりエミリアに聞いたワーフランドの現状は決して明るいとは言えないからだ。

 ワーフランドの現状を把握していない俺が口を突っ込むべきではないだろう。

 ただ、俺の言葉に鳩が豆鉄砲を食ったような表情を女王様は返してきた。


「何か?」

「――いえ。報告は事前に頂いています」

「そうですか」


 まぁ、俺も一応は相手が一国の主だから、それなりに譲歩はするし、エミリアの故郷である以上、問題は起こさないように留意している。


「冒険者カズマ殿でよろしかったかしら?」

「ああ。その様子だったら、俺のことは調べてあるんだろう?」

「そうね。その前に――、まずは自己紹介からさせてもらおうかしら? 私は、ワーフランド王国の女王グレース・ド・ワーフランドです」

「――なら俺からも自己紹介させてもらいます。田中一馬です」

「タナカカズマ?」


 ああ、こっちの世界だと――、


「カズマ タナカと言います」

「貴方は、貴族の方なのかしら? そのような報告は書かれていないけれど……」

「カズマが名前で、家名がタナカです。自分が住んでいた国では、親しくない間柄、もしくは公式の場では、名前と家名を一緒に呼ぶ習慣があります」

「そうなのね……」




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