第250話 王城での謁見(7)

「ご理解いただき感謝いたします」

「頭を上げてもらえるかしら? それに、娘を保護してくれた方に色々とご迷惑をかけてしまったことは、大変に心苦しくも思っているから」

 

 エミリアの母親グレースの瞳が、エミリアの方へと向けられる。

 その瞳の色には先ほどのような無機質な色合いは見受けられないが――、すぐに視線を俺へと戻してくる。


「カズマ殿」

「何でしょうか? 女王陛下」

「クスッ――、普通に話してもらってかまわないわよ? 娘を助けて連れてきてくれた恩人ですもの。そして、この場は非公式な場。形式や言葉遣いに拘る必要はないわ」

「そうか。それならお言葉に甘えさせてもらおうか」

「それが本来の話し方なのね?」

「まあな」


 俺は椅子に座りながら肩を竦める。


「それで、娘とは、どこで出会ったのかしら?」


 チラリと俺はエミリアの方を見る。

 エミリアが頷いたのを確認しつつ――、


「エミリアと出会ったのは詠う森になる」

「詠う森って、大陸から、かなり離れた島よね?」

「そうだな」


 俺は頷く。

 大国アルドノアからは、かなりどころか相当距離がある場所で、俺とエミリアは最初に互いの心境を語った。

 まぁ、エミリアが奴隷だったというのは、伝えない方がいいだろうという俺なりの考えであったが……。


「そう……なのね……。それにしても、本当によく無事に帰ってきてくれたわ。エミリア」

「お母さま……はい……はい……エミリアは無事に帰国致しました」

「そうね。全ては、カズマ殿の計らいなのね?」

「まぁ、エミリアは俺の嫁だからな。あまり感謝しなくても大丈夫だ」


 俺の発言に、軍議室の温度が何℃か下がった気がするが、気のせいではないだろう。

 現に俺の目の前に座っているグレースは、凍り付いたままだし。


「――え、エミリア? 嫁? それは……どういうことかしら?」


 ゆっくりと――、壊れたブリキの玩具のごとく、グレースは頭を動かしエミリアの方を見て、一言一言、確認するかのように言葉を発する。


「カズマが言ったとおりです。私は、カズマと既に結婚しています。もちろん! 男女の仲です!」


 男女の仲までは言わなくて良かったのでは? と、思いつつも。


「カズマ殿? 娘の純潔を奪ったのですか?」

「まあ……」


 ここは曖昧に答えても仕方ないだろう。


「そのとおりです!」


 男らしくハッキリと答えよう。

 

「なんて……ことなの……ワーフランドの唯一の血統を残せる娘が……、妖狐族以外だけでも問題なのに、まさか種族すら違う人間と――」


 ひどくショックを受けているところ、申し訳ないが、そういう心の中の声は、心の内だけで留めておいてほしいものだ。


「お母さまっ! 私の旦那様を悪く言わないでください! それに、血統については、すでに、赤子を授かっております!」

「――え?」

「なっ!?」


 エミリアの爆弾発言に、俺とグレースの声が重なる。


「――ど、どういうことなの! 人間と、子供が出来た妖狐族の話なんて聞いたことがないわ!」

「ふっ。全ての生物の頂点に立つ、我がマスターなら当然の帰結である!」


 何故か、壁の花と化していたイドルが自信満々にドヤ顔した。


「そうじゃな。妾の主様なら、ゴブリンのメスですら妊娠させる事ができると自負しておる!」


 そしてリオンと言えば、とんでもない事をサラッと口にした。

 さすがにモンスターと、そういうことをするつもりはないから、そういう仮な話を持ち出すのはマジで止めてくれ!

 

「……本当に、この人間――、カズマ殿の子供を身ごもっているのですか? エミリア」

「はい! お母さま!」

「……カズマ殿」


 恨めしい表情で、グレースは俺を見てくるが、俺だって今の今まで知らなかったのだから、そんな目で見られても、困る!

 まぁ、毎日していれば、妊娠するのも仕方ないか。

 むしろ出来ない方がおかしまである。

 

「コンドームとか存在してないからな……」

「コンドーム? それよりもカズマ殿! この責任は、どうとってもらえるのですか!」

「責任も何もエミリアは俺の妻だからな。その点だけ言えば既に責任はとっていると言ってもいい。それに子供が産まれるのなら、色々と物入りになるから――」

「そういう事ではありません! エミリアは――、娘は! 将来は、ワーフランドの女王となって後ろ盾となる有力な貴族から子息を選んで――」


 そこまで、女王陛下が捲し立てたところで、


「お母さま! カズマは、私の伴侶です。そしてSランク冒険者です! その! どこに不満があるのですか!」

「エミリア。貴女も分かっているでしょう? 王女という立場が、どれだけ国にとって重要な事か? ――と、いうことくらいは」

「分かっています。それにお母さまは、カズマについて冒険者ギルドから情報提供を受けたのですよね?」

「それは……」

「カズマは、有力な貴族よりも遥かに実績を積んでいます! 魔王四天王を次々と撃破し、大国アルドノアの暴走した勇者を倒し、リーン王国をも救っています! これだけの実績があるのに認めないのは、おかしいと思います!」

「それは、ほんとに?」

「本当です! 冒険者ギルドから情報は提供されてはいないのですか?」

「……そのような記述はないわね」


 どうやら、冒険者ギルドは俺の個人情報を全部渡したわけではないようだ。




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