第251話 王城での謁見(8)
「カズマ殿」
「ん?」
「カズマ殿の情報を冒険者ギルドで参照させてもらってもいいかしら?」
「別にかまわないが?」
「分かりました。そこの者。カズマ・タナカと言う人物について、詳細を知りたいとすぐに冒険者ギルドへ連絡を」
「はっ!」
「カズマ殿。功績について確認するのに少々、お時間を頂いても?」
俺は心の中で溜息をつきながら頷く。
まぁ、エミリアが王女だって聞いた時に、こういう面倒な話になる事は薄々と理解はしていたが実際、渦中に放り込まれると面倒だな。
ただ、エミリアとの今後のことを考えると、必要な手順だろう。
あれだな。
男が、結婚の許可を貰うのに相手の親御さんのところに挨拶に行くようなものかと考え――、なかなか騎士が戻って来ないと思っていると、
「時間が掛かりそうですし、少しお茶など如何ですか? カズマ殿」
「そうだな……」
そこに異論はない。
エミリアの方を見れば彼女も頷くから、受けても大丈夫だろう。
女騎士が、頭を下げて部屋から出ていくと、すぐに5人ほどのメイドが室内に入ってくると、お茶の用意を手際よく行う。
「カズマ殿。どうぞ」
「――では、先にと……前に……。イドル、リオン、お前たちもどうだ?」
「マスターのご命令ならば」
「主様の指示でしたら遠慮なく頂きます」
「二人にもいいよな?」
「はい。もちろんです」
リオンとイドルが席についたあと、先に俺が用意された御茶請けに手を付ける。
そして、リオンとイドルの二人も主人である俺が食したところで、食べ始めるが――、その食べる速度は凄まじいの一言に尽きる。
「お前たち、すぐに追加を――」
女王陛下がメイドに命じる。
「お二人とも、随分とお腹が空いているのですね?」
「そうじゃな。妾は、とても空腹なのじゃ!」
リオンが遠慮なくお皿の上に乗っているパンケーキや、サンドウィッチ、スコーンなどを口に入れて頬張っていく。
時間にして1分も立たずに完食。
「エンブリオンっ! 貴様っ! 我の狙っていたモノを!」
「ふんっ! マスターが、食べていいと仰れたのじゃ。食べて何が悪いというのじゃ? ウェイドルザークよ」
8割を食べつくしたリオンに対して、上品に食事をしていたイドルが食ってかかる。
先ほどまでの優雅なアフタヌーンティーの雰囲気が台無しだ。
「リオン、イドル。ここは宿屋でも冒険者ギルドでも町の食堂でもないんだぞ? 場所を少しは弁えろ」
「はっ。申し訳ありません。主様」
「マスター、ごめんなのじゃ」
「まったく……。騒がしくして申し訳ない」
「――い、いえ……。それよりも……お二方は……、名前が……」
「ああ」
まだ報告は受けてないのか? ――いや、受けてないよな。
報告をしていた雰囲気はなかったし。
まぁ、ここは素直に伝えておくか。
後々、知られてゴタゴタになるのは面倒だし。
「リオン、イドル。二人とも、食事が届くまで時間があるから自己紹介しておけ」
「何故に、下等な種族に……」
「うむ」
リオンの口ぶりに、イドルが賛同する。
そこは共通認識なんだな。
そして、その物言いは、相手を怒らせる言動だから気をつけろと。
「良いから!」
俺の命令に明らかにびくっ! と、体を動かすリオンとイドルの2匹。
「わかったのじゃ。下等種族よ! 聞くがよい! 妾は、四大属性竜の一角! 水竜アクアドラゴンのエンブリオンである!」
「どうして、そういう自己紹介になるんだ。お前は」
「いたっ! マスター、妾の頭を叩くのは止めて欲しいのじゃ」
「だったら、もう少しまともな自己紹介をしろ。相手を煽っているようにしか見えない」
「わかったのじゃ……」
溜息をつきつつ、イドルの方を見る。
すると彼女は自信満々に頷く。
「ワーフランドの女王よ! 我は、汝らが奉っておる四大属性竜アースドランのウェイドルザークである」
「まぁ、及第点ってところだな」
そんな二人の自己紹介を聞いていたグレースと言えば、完全に表情どころか仕草が凍り付いていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫だと思います。お母様も、流石に四大属性竜のお二方が訊ねて来られるとは思ってもいなかったと思いますから」
くすっと笑うエミリア。
「それに良い薬です。私の旦那様を侮辱したのですから」
エミリア、結構、根に持つタイプなのか。
まぁ、それだけ俺のことを大事に思ってくれていると思うと嬉しくはあるが。
「か、カズマ殿? お二人は……。本当に……」
「ああ。俺の下僕の地竜イドルと、水竜リオンだ。よろしく頼む」
「お母さま、本当の話です。レイブンに話を聞いてくだされば真実だと分かるはずです」
「……そ、そうなのね」
俺たちが見ている前で凍り付いていた騎士にエミリアの母親がレイブンを呼んでくるようにと命令を下すのが見えた。
それから、しばらくしてレイブンが来ると、イドルが地竜に変化したことを報告するが、話の途中から、女王陛下の表情が心配になるほどに青くなっていく。
そして――、話がおわったところで。
「申し訳ありませんでした!」
いきなり椅子を引いたかと思うと土下座を敢行してきた。
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