第252話 王城での謁見(9)

「――ま、まさか! ワーフランドが信仰している地竜様が起こしになられるとは思っても見なく……」

「よい。気にすることはない。お前の娘のおかげで、我は主様と出会うことが出来たのだからな」


 チラリと、イドルが俺の方を見てくる。

 

「――と、申されますと……」


 そう女王陛下が話を続ける。


「こちらのカズマ殿が、地竜様の主ということで?」

「うむ。主様は、我よりも遥かに強く、そして水竜エンブリオンも倒しておるからな」

「なんと……」


 俺の方を女王陛下が見てくる。

 さて、何と声をかけたらいいものか。

 一応は、エミリアの実家だからな。

 あまり、力を誇示してもな……。


「分かりましたか? お母様。カズマは、私が伴侶とするには、勿体ない程の英傑なのです! しかも魔王に唆された異世界から償還された勇者まで倒しています。それでも、カズマをお母様は御認めにならないのですか?」


 そう思っていたらエミリアが自身の母親を問い詰める。


「エミリア」

「カズマ! カズマは、ここまで! 馬鹿にされていて腹が立たないのですか!」

「まあ、色々と思うところはあるが、嫁の実家だからな……」

「カズマ……」

「どうした?」

「カズマは特別なのです! 分からず屋には、一回! しっかりと言った方がいいのです!」

「お、おう……」


 激怒中のエミリア。

 第三者が、あまりにも怒っていると冷静なると聞いたことがあるが本当のようだ。


「まぁ、あれだ……。些細なすれ違いというかボタンの掛け違いみたいなモノがあるからな。俺は、そこまで気にしてないし」

「もう! カズマは!」

「そうです! 主様! ここは、ガツンと言うべきです! 獣人族には、最初の躾が大事なのです」

「妾も、二人の意見に賛同なのじゃ」


 どうやら、女3人組は、俺が何かしら言う事を期待しているらしい。


「ワーフランドの女王陛下」

「は、はい……」

「互いに、歩み寄る部分は歩み寄った方がいいと俺は思う。それとエミリアは、俺の嫁であり、お腹に子供がいるのなら、それこそ俺はエミリアを守る。だから、万が一――」


 俺は、そこで一端、言葉を切る。

 そして――、指を組む。


「万が一、俺のエミリアに何か手出しをしたのならリオンとイドルだけでなく俺がワーフランドの敵になると見てくれ」

「――わ、分かりました」


 土下座状態のまま、了承してくるワーフランドの女王陛下を見下ろしながら、これで問題ないかとエミリア達の方を見るが、どうも不満らしい――、と! 言うのが3人の表情から分かったが、勘弁してほしい。

 嫁の実家に来て我が物顔で何かを要求できるほど、俺は精神的に図太くないのだ。


「理解してくれれば助かる」

「それではカズマ殿」

「ん?」


 顔を上げてくる女王陛下は、俺を見上げてくる。


「カズマ殿が、ワーフランドの次期国王になる事は問題ないと思います」

「……」


 はて? 俺はワーフランドの国王陛下になりたいなど一言でも言っただろうか?


「当然じゃな! むしろ世界の王となっても問題ないまであるのじゃ」

「うむ。リオンの言う通りだ。主様だったら、ワーフランドだけという小さなことは言わないと思っている」

「そうね。私の旦那様だから、そのくらいは当然ですわね」


 俺の評価が以上に高いな……。


「そ、そうか……」


 まぁ、ここはエミリアの手前、少し大物感を出して頷いておこう。


「とりあえず、俺とエミリアとの事は認めてくれたという事でいいのか?」

「そうね。むしろ地竜様の主様であるカズマ殿を認めない方がどうかしているわ。何せ、このワーフランドの守護竜でもあるのだから」

「納得してくれたのなら、俺としては十分だ」


 肩を竦める。

 

「――ただ」


 話がひと段落ついたと所で、冷水をかけるかのように女王陛下が否定ともとれる単語を口にする。


「何か?」

「他の貴族や王国民が、獣人以外の者が王族になる事を認めるかどうかは別の問題よ」

「つまり俺が守護竜を下僕にしていても、俺という存在を国民が認めるかどうかは保証できないという事か?」

「ええ――、そうね……。そこで、カズマ殿に提案があるわ」

「提案?」

「ええ。獣人族は力こそが全てを図る基準なの。たしかに血筋が優先されることがあるけれど、それと同じくらい力が優先されるわ」

「つまり、俺の力を国民に見せて納得させる事が出来れば問題ないということか?」

「そうね」

「なるほど……」

「どうかしら? 場所と時間は、こちらが用意するわ。あとは、カズマ殿が力を見せれば、それで全てが上手くいくと思うわ」

「どうして、主様が、貴様のような矮小な存在の提案を聞き入れなければならないのだ?」


 黙っていたイドルが、威圧するような声色で、エミリアの母親に言葉を叩きつける。


「少し黙っていろ」


 イドルを睨みつけながら俺は言葉を発する。


「申し訳ありません。主様」

「その話、受けよう。こちらとしても、侮られるのは困るからな。とくにエミリアとお腹にいる子供の安全を考えれば、俺が絶対的な力を有していると内外的に知らしめたほうが分かりやすくていい」

「分かったわ。すぐに手配をするわ。ただ、それをこの場で秘密裏に決めるわけにはいかないの。それは――」

「分かっている。謁見の間にて、そちらの話に合わせて、こちらも会話をする。それでいいんだろう?」

  

 コクリを頷く女王陛下。


「エミリア、お前もそれでいいな?」

「カズマが、決めたのならそれでいいわ」

「イドル、リオン。お前たちは、口を出すなよ? お前たちが口を出すと、謁見の間はカオスな事になるからな」


 


 

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