第253話 王城での謁見(10)
「話は纏まったようね」
そう女王陛下の方から、確認とも承諾とも言える言葉が投げかけられてきた。
「そうだな。――で、いつから謁見を開始するんだ?」
「そうね。エミリアの服は――」
「これで問題ないわ。カズマが作ってくれたものだもの」
「カズマ殿が?」
「ああ」
「――ず、随分と……、手先が器用なのね」
手先が器用と言うよりもゲーム内で鍛えたスキルに影響されているから、素直に頷くのは難しいが――、
「まあな」
ここは否定する必要もないだろう。
少し蔑むような視線を向けられたような気がするが――。
「お母様。カズマは、多くの技術を有しておりますし、この服には多くの術式が付与されております」
「そうなの?」
「ですので、裁縫を殿方が行うのは女々しいと思うような思考は止してください」
「……分かったわ。水竜様と地竜様を従えているのだものね。ちなみに、エミリアのドレスや装飾品は、どのような術式が付与されているのかしら?」
「お母様、カズマがどのような術式をドレスや装飾品に付与したかについて説明をする義務は無いと思います。それに、それを知られることは自身の身を危険に晒す事になることは重々承知する内容かと思われます」
「エミリア……。貴女……」
「お母様、私はカズマの妻であり伴侶です。国も大事ですが、それよりもカズマの妻としての立場を最優先しております。――ですので、女王陛下の質疑であったとしても、秘密を語ることは致しませんわ」
「……分かったわ」
額に手を当てて溜息をつくエミリアの母親。
「カズマ殿」
「ん?」
どうやら、女王陛下は、エミリアからは随分と敵視されてしまったようだ。
おかげで俺の方に話を振りたいようで――、
「カズマ殿は、どのような事が出来るのですか?」
「俺か?」
「カズマ、答える必要は無いと思います」
「それは、そうだな」
「エミリア……」
「お母様は、カズマを利用しようとしているのは目に見えていますので、私は、そのような事をさせるつもりはありません」
「エミリア、貴女はワーフランド王国の王女で第一王位継承権を有しているのですよ?」
「それが何か?」
妻と義母との――、女性同士の掛け合いを横で見ながら、思わずどうしたものか……と、考えたところで――、
「マスター。話しが先ほどから逸れているのじゃ」
「それはそうだな。女王陛下」
「何かしら? カズマ殿」
「とりあえず無駄な会話をしていても仕方ない。まずは謁見を何時から始めるのか、それを決めることが先決じゃないのか? 謁見の為に、他の集まれる貴族とか有力者も来ているんじゃないのか?」
エミリアが王女殿下だと判明してからの謁見だ。
行方不明になっていたとされていた王女の帰還からの謁見であるのなら、体裁を保つ為に、急遽、人を集めた事も考えられる。
「――そ、そうね……」
そして、俺の予想は、どうやら間違ってはいないようだ。
「申し訳なかったわね。非礼をお詫びするわ。どうも娘が頑固でね」
「まぁ、エミリアの言っていることは、概ね、俺が考えている通りだから、エミリアが言った内容については、俺も賛同していると思ってくれ」
「……わ、わかったわ」
「――で! いつから謁見をするんだ?」
「ドレスや装飾品は、そのままで問題ないわ」
「――なら」
「でもカズマ殿の服装の方が問題ね」
「そうか?」
「ええ。鎧を着込んだまま、謁見に臨む者は少ないもの」
「なるほど……」
「どうかしら? ワーフランド王国の正装を用意してもいいけど」
「必要ない。それなら、スーツを用意してあるからな」
まぁ、気分転換に作った現代日本風のスーツだが、それで問題ないだろ。
大国アルドノアに召喚された時に、営業マンとして働いていた際、着ていたスーツだが、人間国において皇太子が着るような正装に近いから大丈夫なはずだ。
むしろ、生地だけ見れば皇太子が着る正装よりも遥かに上質だ。
「スーツ?」
「ああ。一応、貴族が着るような服装は持ち合わせがあるから大丈夫だ」
「そうなのね。それじゃ、1時間後に謁見とか如何かしら?」
「ああ。十分だ」
「それでは、部屋を用意させるから、そちらで着替えてもらえるかしら?」
「分かった」
女王陛下が、ベルを鳴らす。
「失礼致します」
軍議室にメイドが入ってくる。
「こちらの方々を応接間へ案内して頂戴」
「畏まりました。お客様、ご案内致しますのでこちらへどうぞ」
メイドが頭を下げて部屋から出ていく。
「カズマ、行きましょう」
「そうだな。リオン、イドル。行くぞ」
イドルと、リオンが黙って頷くと、それぞれ椅子から立ち上がり、エミリアの後をついていく。
「カズマ殿」
続いて部屋から出て行こうとしたところで、女王陛下が俺の名前を呼んでくる。
「何だ?」
「娘を――、エミリアを助けてくださってありがとうございます」
「気にしなくていい。俺は俺の意思でエミリアを助けているわけだし、そもそも最初に俺を守ってくれて助けてくれたのがエミリアからだからな」
「そうなの?」
「ああ。だから感謝してもらう必要はない」
「そう……」
俺は片手を上げて部屋から出る。
そして、先に通路を歩いている3人の後を追うようにして歩き出した。
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