第282話 知っているか? 竜変化の魔法を!

  ――ざわっ! と、謁見の間に広がる声。


「竜神様だと!?」

「――あれは人間ではないのか?」

「いや、落ち着け。あれだけの力に魔力……、人間では考えられない。むしろ竜神と言われた方が……」

「そんなバカな! 人間だろう! 匂いが!」

「女王陛下は何を言って……」


 次々と有象無象の――、謁見の間に集まっていた獣人族の間から声が漏れる。


「なるほど……、私の国は竜神が冒険者だったのですね……」


 そして何故か知らないがシルフィエット王女殿下は、エミリアの母親の言葉を鵜呑みにしている。

 昨日までは俺に執着していたが、何かあったのか?

 

「女王陛下!」


 一人の獣人が歩み出てくると、俺を睨みつけてきたあと、


「彼が! カズマという男が、竜神だという事は本当なのですか! 我々、獣人族は匂いさえ嗅げば、その者が、どんなに擬態してようと人間族なのか否かを判断できます!」

「判断できてなかっただろ」


 思わず声が出た。

 リオンやイドルについて城で近衛騎士という大役を任されていた獣人族は誰一人、リオンとイドルの人型変化に気が付いていなかった。

 それなのに匂いで判断がつくとは笑ってしまうレベルだ。


「――なんだと!?」


 俺は肩を竦める。

 俺にだけ聞こえる小声で呟いたというのに、随分と耳だけは良い事だ。

 そして、俺が人間であることも間違ってはいない。


「バークレー公爵。それは、私の言葉を疑うということですか?」

「疑うも何も、この男は人間です! 女王陛下ともあろう方が何を血迷ったことを――」

「失礼ですよ! バークレー」

「私は、全ての獣人族の代表として女王陛下の過ちを正すために命を賭して話しているのです!」


 話の流れだけを聞く限りでは、バークレー公爵の言っている内容には筋が通っている。

 まぁ、実際には間違っていないわけだが……。

 だが、ここでバークレー公爵の言を工程してしまうと、エミリアの母親だけでなく、俺やエミリアにまでとばっちりがくるわけで。


「(何とかしないと駄目だよな……めんどくさ)」


 やれやれと、俺は溜息を心の中で呟いたあと、立ち上がる。


「ワーフランド王国の女王よ! ――それでは、この俺が! 竜神という証を見せればよいのだな?」


 俺の発言に、またもざわつく謁見の間。

 まぁ、竜神の証なんて、そんな簡単に見せることなんてできないわけで――、普通ならな!

 それよりも、下手な演劇をさせられているような気分がしてくる。

 それと、バークレーという熊のような見た目をした獣人を、仕込んでいるとは俺は始めて聞いたんだが?

 イレギュラーがあると、色々と困るから事前に相談くらいはしておいてほしいものだ。


「――なん……だ……と……!?」


 何だか知らないがバークレーが俺の発言に随分と驚いているようだが、中々の芸達者なやつだな。

 そして、女王陛下も「こいつ何言ってんの?」という不思議そうな目で俺を見てくるのは止めてほしいものだ。

 

「――さて、見せてやるとするか……」


 俺は、ゆっくりと、謁見の間から外に出られる場所の――、バルコニーに繋がるガラス製の両開きの扉を開ける。

 すると気圧の差からなのか風が吹き込んでくるが、無視してバルコニーに出たあと、城の中庭に向けて移動するために手すりに足を置く。


「よく見ておくがいい! この俺の真の姿を! とう!」


 バルコニーから飛び降りる。

 バルコニーの下は、丁度、中庭になっていて庭園が下には見える。

 俺は飛び降りつつ、


「融合魔法LV9 竜変化の魔法ドラゴンドライブ!」


 力ある言葉と同時に、俺の身体は鱗を纏い巨大化していき1秒と掛からず巨大な白銀の龍と化す。

 そして一拍置いたあと、俺は中庭に轟音と共に着地する。

 

「ガアアアアアアア!(なんとか、うまく言ったな)」


 変身した姿は、アルドガルド・オンラインに実装された日本で有名な竜と大差はない。 

 西洋の龍とは違い胴体が異常なまでに長く、蛇とドラゴンを足して2で割ったような感じだ。

 だからこそ自然と頭を上げれば体の長さだけで200メートルを超える巨体は、易々と城の上層に位置していた謁見の間のバルコニーを超えるだけでなく、城の高さすら優に超えた。


「これで、どうだ?」


 俺は、威風堂々と言った感じで、バークレーに話しかけた。

 バークレーは、俺の竜に変化した姿を見たあとは完全に固まっていた。

 それは女王を含めて全員同じで――、


「カズマ?」

「うむ。エミリアよ! 我が妻よ! どうであるか? 俺の本当の姿は?」

「すごいわ! さすがカズマ! 私の旦那様!」

「――で、あるか! うむ」


 誰もが会話せずに固まっている中、俺とエミリアの会話だけが響く。

 そして俺は魔法を解除する。


「――で、どうであったか? 女王よ」

「――え? あ、う、うん、はい」


 返事くらいは、まともにしてもらいたいものだ。

 そもそも竜神と言う事にしようとしたのは、お前とエミリアだというのに。

 お前が始めた物語なんだぞ?

 そこを放棄してどうするというんだか……。


「俺の本当の姿を見た感想はどうであったか?」

「素晴らしいの一言です。竜神様だと聞いておりましたが、実際に己の目で見るのとでは違います」

「そうか。そうか」


 俺は何度か頷く。

 これで問題は無いだろう。

 女王の発言にも信憑性が生まれたに違いない。





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