第15話 港町ケイン(4)

「仕方ないな」

「――え?」

「いいのですか?」

「早くしてくれ。今回だけだ」

「分かりました」


 とりあえず、鼻緒が切れたままでは、まともに歩くことも出来ない。

 エミリアを背負って、俺は近くの靴屋へと向かう。


「申し訳ありません。迷惑をかけてしまって……」

「気にしなくていい。それに、俺とエミリアは、立場的には同じだから、畏まった言い方は止してくれ」

「――ごめんなさい」

「謝らないでくれ」

「ただ、町中にいますと獣人が同行している人間と普通に会話していると怪しまれますので」


 エミリアの体重は、とても軽い。

 まぁ、ステータスを強化したせいもあると思うが……。

 彼女は周囲に聞こえないように耳元で俺に語りかけてきている。


「それで、ずっと敬語なのか」

「そういう訳ではないのですけど……」

「まぁ、掘り下げて聞くことはしないが、それより俺の方も獣人は奴隷契約というのをしているのが普通だと浴場で知り合った年寄りに聞いたんだが本当なのか?」

「……本当です」


 少し、間が空いたあと、エミリアは肯定してくる。


「獣人は魔王の手先と人間には見なされていますので、奴隷契約をしていない獣人が見つかった場合、我先にと、奴隷にしようとしてきます」

「……醜いな」


 俺は思わず溜息をつく。

 他人の自由を奪う行為。

 それは、悪徳以外の何物でもない。

 それらを喜々として行う奴というのは、俺の中では魔物以外の何物でもない。

 俺の呟きにエミリアは無言のまま、否定も肯定もしてこない。

 何か思う所がるのだろう。


「――ん? 客か?」


 無言のまま歩いていた所で、靴屋の前に到着。

 靴屋の店主が足を止めた俺に話しかけてくる。


「ああ、エミリアの靴を見繕ってほしい」

「ほう。奴隷用ということでいいのか?」

「戦闘用で頼む、それも奴隷用ではない――、きちんとした性能のいいやつで」

「あいよ。それじゃ、足を見せてくれ」


 エミリアを木製の椅子の上に卸し、店主がエミリアの足を確認しているのを見つつ、周囲へと視線を向ける。

 何か、物珍しいモノがないかどうか確認する為だったが――。


「なるほどな……」


 一人、誰にも聞こえないように呟く。

 浴場の老人も言っていたし、今のエミリアの会話からも薄々と思っていたが、どうやら俺達というかエミリアは狙 われているらしい。

 少なくとも、その数は10人以上。

 視線を向けただけで、咄嗟に裏路地に身を隠した人間の数だ。


 やれやれ、厄介だな。

 それよりも問題なのが、エミリアは俺の奴隷では無いというのが第三者には直ぐに分かる点だ。

 もしかしたら首輪をしていないからなのか?

 老人も言っていたしな。





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