第16話 港町ケイン(5)

 だが……。

 エミリアに、首輪をつけさせて身を守るというのは、そういうのはしたくない。

 それは、遠回しに彼女を――、エミリアを束縛することに繋がるからだ。

 そして――、それは……あの勇者組の連中が、俺を学校で暴力を振るって従えてきたのと本質は同じだ。


 ――なら……。


「店主」

「なんだ? まだ、足の採寸は終わってないが?」

「少し席を外す。エミリアの靴を作っておいてくれ」

「なんだ……そんなことか」

「カズマ?」


 俺の名前を呼んでくるエミリア。


「ちょっと用事を済ませてくる。お前は靴を作ってもらっておいてくれ」


 横目で、彼女が頷くのを確認しつつ、俺は靴屋の前を後にする。

 そして、すぐに俺達を見ていた連中が隠れた路地へと入り――、


「さっき隠れたのは分かっている。出てこい」

「やれやれ――、穏便に済まそうと思っていたのによぉ! おい! お前ら!」


 俺の言葉に反応し、出てきた小太りのモヒカンの男が姿を現し、男が合図すると同時に10人……20人近くの男達が姿を現す。


「なあ、兄ちゃん。ちょっと物は相談なんだが、あの女は兄ちゃんの奴隷じゃないよな? ちょっとくれないか? まぁ、無料とは言わんよ! 金貨10枚でどうだ?」

「……」

「安いか? なら、金貨20枚で手を打ってもいいんだぜ? あれだけの別嬪だ。客は幾らでも付くだろうからな――ぐへへへ」


 下卑た笑みを浮かべるモヒカンのデブ。

 俺は、その腐った提案を見ながら口を開く。


「断ったら?」

「決まっているだあろう?」


 男が指を慣らすと、一斉に周辺の男達がナイフを取り出し、身構える。

 つまり、俺がエミリアを渡さないと殺すってことか。


「なるほど……」


 俺を殺そうと画策した勇者組と一緒に居た時には気がつかなかった。

 獣人を狙っている連中が、こんな腐ったゴミダメのような人間だとは。

 話せば解決できるかもと少しは期待したが、そんなことは……。


「なんだ? ズボンの中に手を突っ込んで……諦めたのか? だがな! もう、おせーんだよ!」


 そう男が叫んだ時。

 俺はズボンから小石を取り出し、投石する。

 高速で空中を切り裂き飛ぶ小石は、俺を攻撃するための指揮をしていた男の頬の近くを通り抜け、別の男の胴体にぶつかる。

 そして――、小石が当たった男の体は後方に吹き飛び地面の上を転がっていき裏路地の建物の壁にぶつかって止まった。


「――なっ!? 何しやがんだ! てめーっ!」

「命まで取る事はしない。だが――、しばらくは眠っておいてもらうぞ」


 俺は小石をスキル『投擲LV10』を使い連続で飛ばしていき、男達を一掃した。


「ヒッ!」


 残り一人になった男が尻もちをつく。

 わずか10秒ほどで20人近くの男の部下が倒されたのだから恐怖と引き攣った顔で俺を見てくるのは理解出来る。


「まだするか?」

「――い、いえ。申し訳ありま――ぐふぉ」


 とりあえず、残りの一人にも小石を打ち込んでおいた。

 これで、問題が起きることはないだろう。





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