第239話 銀髪褐色の深窓の令嬢(5)

 欠伸をしながら、俺はベッドの上で上半身を起こす。

 ベッドは色々な意味で色んな感じで大変な状況になっている。

 簡単に言えば情事の後と言ったところか。


 俺の横では、白いシーツで体を隠してはいるが、煽情的な姿の美女のサーシャ・ボールドが、静かに寝息を立てていた。


「あれだな。沈黙の洞窟内でなければ、太陽が見えていたら――、たぶん黄色い太陽だとか言ってそうだな」


 俺は視界に表示されている時刻をチェックする。

 時間は、午前6時少し過ぎ。

 それにしても、夜伽を教えられているという事だけあって、かなりすごかった。

 始めてとは思えないほどに。


「カズマ様?」


 どうやら、独り言を呟いていたら、目を覚ましてしまったようだ。


「どうかなさったのですか?」

「――いや。寝顔に見とれていただけだ」


 ポッと頬を赤らめるサーシャは、室内を煌々と照らすランプの元で、はにかむ様な笑顔を俺に見せてくる。


「あの……カズマ様」

「どうした?」

「どのくらい集落に滞在されるのですか?」

「なるべく早くワーフランドに向かいたいと思っているから、今日中には立つ予定だ」

「そうなのですか……」

「ま、まぁ――、ワーフランドとダークエルフ族の間で同盟が成れば、すぐに迎えにくるからな!」

「はいっ! 待っています!」


 シーツでたわわな胸を隠しながら、サーシャは笑みを向けてきた。



 

 ――3時間後。

 

 太陽が、すっかり上がり切ったところで、俺達一行は、沈黙の洞窟を後にする。


「カズマさま……。お待ちしています……」

「お、おう……」

「カズマ。随分と一日で仲が良くなったのね?」

「お、おう」


 何故か知らないが、エミリアから圧倒的なまでの強者の雰囲気を感じとり、俺の冷や汗と緊張感はMAXになっている。


「それでは、エウレカ・ボールド様。私達は、これで失礼致します」

「うむ。ワーフランドの王女、エミリア・ド・ワーフランド王女よ。同盟の件、宜しく頼む」

「はい」

「それとカズマ殿。妹のこと――、待っているぞ?」

「分かっている」


 俺は頷く。

 男女の仲になったのは二人目ではあるが、キチンと責任は取るつもりだ。

 

「それならいい」

「それじゃ、エウレカ。また来る」

「待っているぞ! カズマ殿」


 アイテムボックスから出した幌馬車に乗り込み、俺達一行は、ダークエルフが支配するエルフの森を抜ける為に西へと移動を開始する。

 最後まで、俺達が見えなくなるまで、サーシャは手を振っていた。


「カズマ」

「な、なんだ?」


 手を振り返していた俺の体に抱き付いてきたエミリアにドキッとしてしまう。

 何度も逢瀬を重ねてきた相手であり、俺が愛する女性。

 心臓の鼓動が早くならない方がおかしいだろう。


「ずいぶんと、サーシャの匂いが染みついています」

「そうなのか? きちんと体を洗ったんだが……」

「獣人族は鼻がいいからの」


 幌馬車を引いているのはイドルであり、幌馬車の中には俺とエミリア以外にはリオンが座っており、冷静に感想を述べてきた。


「妖狐族です。それよりも、カズマ……」

「ど、どうした?」

「さてと、妾は、少し御者席に行くとするかの」

「おい! 気をつかう必要は――」

「カズマ。とりあえず、匂いを上書きしないと駄目です」


 頬を赤らめながら、魅惑的な体を俺にエミリアは押し付けてきた。






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