第240話 エミリアの故郷(1)
一日ほど移動したところで、ようやくダークエルフの勢力地を抜ける。
森林を抜ければ、そこは小高い丘で――、丘の上からは遥か先まで平原が続いているのが一目で分かった。
「カズマ、あそこに見えるのがワーフランドの国境です」
エミリアが指差した方向を見れば、そこは石材の立派な作りをした壁がずっと平原を隔てているように存在していた。
「ずいぶんと壁があるんだな……」
「ワーフランドは、ダークエルフ族と国境を接しています。ただ、そのあとは国元までは、大小様々な川や谷がありますので、ここくらいしかまともに国境線を配置する余裕がないのです」
「なるほど……」
俺は、エミリアに説明を受けながらも視界内に表示されているMAPで、どのくらいの獣人族が警備をしているのかを確認するが――、
「誰もいないぞ?」
「――え? そんなはずは……」
「主様、あそこの砦には、我らの子らが守っておりますので」
「……つまり、イドルが放った地竜が守っていると?」
「そうなりますが……」
「なるほど……。殺したりはしてないんだろうな?」
「もちろんです! こちらが姿を見せた途端、砦を任せてくださりました!」
「なるほど……。何となく理解はした。理解はしたくないが……」
つまり、地竜の子供達を見て脅威だと感じたから軍の損失を鑑みて砦を明け渡したと見た方がいいだろう。
まったく、あとあと説明が面倒になるから、事前に報告をしておいてもらいたいものだ。
「イドル。今度から、人間と会う前に、俺に報告をしてくれ」
「分かりました。主様」
「――ということだ。エミリア」
「王宮に戻ったら、お兄様やお母様に事情を説明しないとですね」
「そうだな」
エミリアの家族にあって結婚に関しての報告を事後報告としてあげない俺としては、これ以上の厄介ごとを増やしたくない。
――というより、すでに心境は溜息しかでない。
「とりあえず砦にいくか。リオン」
「分かりました。マスター」
俺の指示でリオンが幌馬車を引きワーフランドの砦へと走る。
あっと言う間に、砦が見えてくると共に――、
「一応、砦の扉は閉まっているんだな」
「そのようですね。扉は中の開閉器でしか動きませんから、困りましたね」
「開閉器か」
幌馬車から降り、俺は10メートル近くある壁を跳躍し登る。
反対側には、30以上の石作りの家々が並んでいて、扉の前には開閉レバーが見える。
「あれか……」
よくゲームとかで出てくるゼンマイ仕掛けの開閉レバーを動かし、扉を開ける。
重厚な音と共に両端に開かれていく扉。
「リオン! いいぞ!」
「了解しました。マスター」
リオンは幌馬車を引っ張り砦の中へ移動してきたところで、俺は開閉レバーを閉める。
そこで俺はふと思う――、最悪なことを。
「エミリア」
「はい?」
「ワーフランドには砦は幾つあるんだ? 東西南北に、それぞれあるのか?」
「はい。一応は――」
「イドル」
「何ですかな? 主様」
「4か所に地竜を放っているよな? これと同じことをしているんじゃないのか?」
「そうですが?」
「そうかー」
これは、王宮に行ったら針の筵状態になりそうだな。
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