第241話 エミリアの故郷(2)
砦を超え幌馬車で移動する事、数日が経過したところで前方に大きな壁が見えてきた。
色は焼いた煉瓦のままで塗装などはされてはいない。
ただ――、壁の外からも見えるほど高い建造物が目に入る。
その建物には、幾つもの尖塔があり、一目で城という様相であった。
「マスター」
「ああ。分かっている。あれがエミリアの故郷の都市なのか?」
「はいっ! 王都リベルタニアと言います!」
一週間近く、ダークエルフの領土から移動に時間が掛かったワーフランドの王都。
視界内に表示されているMAPには、リベルタニアと表記されている。
「リベルタニアか……」
思わず口から、その単語が零れ落ちる。
リベルタニアは、アルドガルド・オンラインでは、人間族に滅ぼされた国とされていた。
それは、あくまでもゲームの設定ではあったが、エミリアに聞いた大国アルドノアとの確執から考えてみれば、滅ぼされる可能性は非常に高かったのは用意に推測できる。
「カズマ、どうかしましたか?」
「いや、何でもない」
俺はエミリアの頭を撫でながら言葉を返す。
サラサラと銀色の髪が指の隙間から零れ落ちて心地良い。
「マスター」
「どうした? リオン」
「あれを」
リオンが指差した方角へと視線を向ける。
まだ距離があってハッキリと見えない。
身体強化を行い再度、確認する。
「騎士団の一団か」
「はい。マスター、どうしましょうか?」
「とりあえず、向こうの出方待ちだな。リオン、イドル、絶対にこっちから手を出すなよ」
「分かりました」
「承知」
「エミリアは――」
「騎士団でしたら、私のことを知っている者がいると思います。その方が、話は早いです」
「そうだな……」
一瞬、面倒事になると大変だと思い城につくまではエミリアには隠れていてもらおうと思ったが、杞憂か。
「そこの幌馬車止まれ!」
リオンが、俺の指示通り馬車を停車させる。
そして離れた場所から、こちらに命令をしてきた騎士団の一団が近づいてくる。
「ウェアウルフか……と、いうことは――」
騎士団は胸当てや脛当てなどはしているが、それは金属製の物ではなく、皮製の物。
移動を阻害しないような配慮がされているし、装飾もされていない。
金がないのか、それとも実を取っているのか。
「貴様っ! 人間だな! 名を名乗れ!」
「カズマだ」
「カズマ? どこかで聞いた事がある名前だな……」
「そうか? まぁ、世の中には似たような名前を持つやつが3人はいるって聞いた事があるからな」
「なるほど。――で、人間が、どういう理由でワーフランドの王都に向かっているのだ?」
「仕事だな」
「ほう……」
俺の言葉に、懐疑的な視線を向けてくるウェアウルフ。
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