第39話 港町ケイン防衛戦(18)

 ダメージが入ってない?

 先ほどは確実に手ごたえがあった。

 それなのに、一瞬で張りのある声に戻った。

 どういうことだ?


「これならどうですか!」


 アンセムが円盤状のチャクラムを投げ飛ばしてくる。

 その数は20近い。


「――くそっ!」


 まだ対抗手段が見つからないというのに、攻撃を入れてくる相手に対して、悪態をつきながら俺は距離をとりつつ、スキル『イーグルアイLV10』にて空から下を見下ろしつつ戦術を組み上げる。


 本当に称号『勇者』を持っていなければ倒せない相手なら、俺では絶対に勝てない!

 

「勇者か……」

「この場には勇者は居ない事は確認していますーよ」

「そんなことは分かっている」


 俺は、飛んでくるチャクラムを避ける。

 だが――、完全に避けることは出来ず、ステータスを最大まで引き上げているにもかかわらず服が――、皮膚が切り裂かれていく。


「――なら、どうしますか! 冒険者! 命乞いでもしますーか? ふははははは、人間! 勇者を呼びますか! ですが、神に近い魔王様に与えられた不死身の肉体! ただの人間ごとき冒険者風情に倒すことなど不可能! 不可能! 不可能!」


 アンセムは高笑いしながら、さらにチャクラムを飛ばしてくる。

 さらに、魔物がケインに向けて進軍を開始する。


「嘆きなさい! 人間! そして愚かな冒険者! ここに勇者が居ない事を後悔し死ぬがいいでーす」


 こちらの焦りを増長させるかのように声高々に勝利を宣言してくる。


「くくくくっ……」


 それを聞いて、俺は思わず笑いが込み上げてきた。


「気が狂いましたか?」

「――いや……」


 一瞬でも勇者組のことを思い、負けるかも知れないと思ったことを恥じただけだ。


「違うだろ……」


 あいつらには絶対に頼らない!

 それに――、俺には20年というゲーム知識がある。

 その知識を総動員して考えろ!

 もし本当に勇者でしか倒せないなら、神に近い存在であるのなら、人の身で倒せる戦術を組め!

 俺は何のために――、20年という歳月をゲームに費やしてきた?

 何のために無数のレイドボスを一人で倒してきた?

 何のために数多の星の数ほどのモンスターを倒してきた?

 

 ――それは、何のためだ?


 無数の経験と知識。

 ゲームの攻略サイトを全て暗記した俺の記憶が一つの戦術を作り上げる!


「一か八かだ!」


 思い立つと同時に、一気に俺は、進軍を開始したモンスターの中へと突っ込んでいく。

 俺に振り下ろされてくる棍棒や大剣に片手剣。

 それらを巧みに避けつつ、奥へと進んでいくと――、次々と俺が通り抜けた場所に居た魔物達がチャクラムにより切り裂かれ倒れていく。


「ほう? 人間! 考えますね。私に勝てないと見て逃げの一手をとるとは! ですが! 逃がしませんよー」


 自らの部下を、自身の放った武器で殺しているにも関わらず余裕の態度を崩さないアンセム。

 俺は、モンスターの体を盾にしながら、思考で視界内のアイコンを操作する。

 それも二つのウィンドウを開き――、同時操作。

 ゲーム内では、マルチタスク操作という超高難易度操作技術であり、熟練のプレイヤーでも同時に操作する事は困難を極める。

 だが――、20年という歳月をかけて完成された俺の『真のマルチタスク操作』は不可能を可能にする!


「いけっえええええええ」

 

 魔法『雷魔法LV10』のアイコンをタップ。

 そして、倒れたモンスターが掴んでいた大剣を掴み空中へと放り投げつつ、殴りつける!


「レベル7の雷属性魔法! レールガン!」

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