第134話 城塞都市デリアⅡ(5)

「マスター!」

「リオン、お前は勘違いしているが、俺は魔神ではないからな」

「ですが! 妾を倒すほどの力は……」

「それは、ソレ。これは、コレだ」

「……納得は出来ませぬが――」

「納得するしないの問題じゃないからな。まぁ、納得いかないなら、また戦ってもいいが?」

「――いえ。それは……」

「あの、カズマ」

「どうした? エミリア」

「カズマは、一人でアクアドラゴンと戦って倒したんですよね?」

「まあな」


 俺は肩を竦めながら答える。


「うむ。妾を倒すことが出来るのは妾達を作った魔神様か敵対する聖神以外はありえぬ」

「つまり、カズマは、聖神とかは無いですよね……。亜人を敵視している神だったら、私と結婚するはずありませんし……」

「だから魔神様だと……」

「俺は神じゃないからな。ただの普通の人間だ」

「分かりました。マスター」


 やけに素直に引き下がるリオン。


「そういえば、カズマ」

「ん?」

「以前から気にはなっていたのですが、カズマって勇者と知り合いですよね?」

「知り合いというか腐れ縁って奴だな」

「――で、勇者の一人を倒したんですよね?」

「まぁ倒したというか色々とあったからな。お礼参りって奴に近いな」

「お礼参りとは?」

「やられたらやり返すみたいなものだ」

「つまり復讐と言うことですか?」

「それに近いな」

「あれ? もしかして……、最初に出会った時って……」

「あまり詮索しないで貰えると助かる」


正直、アイツらに殺されかけた時の記憶はあまり思い出したくはない。まだ殺されかけた時の記憶は鮮明で、思い出すだけで腸が煮えくり返る思いだ。


「分かりました」

「それと、リオン」

「どうかしたのか? マスター」

「これを常に携帯していろ」


 冒険者ギルドカードをテーブルの上に置く。


「これは?」

「お前の身分証だ。人間の国で活動する際には身分証というのは必須に近いからな。一応、冒険者の身分と言う形で登録されている」

「それはマスターと同じ?」

「そうだな」

「おお……」


 震える手で、冒険者ギルドカードを手に取るリオン。

 声色からして、とても感激しているというのが伝わってくる。


「――さて、とりあえず話を変えるぞ? まず、リオンの体重が重いという事を考えて、ワイバーンを利用しての移動は不可能という事から、城塞都市デリアから王都への移動は幌馬車がメインとなる。それはいいな?」

「マスター……、妾の体重が重いというのは雌に向かって良くは無いと思うがの」

「そうですよ、カズマ。女性の体重が重いとか言ったらダメだと思います」

「いや、事実をありのまま話しただけで、別に文句を言っている訳ではないんだが……」

「それでもです」

「分かった。とりあえず、リオンの重量が重いからワイバーンでの移動は無理だという事なので、陸路での移動になる。明日、冒険者ギルドには俺から報告しておくから、その後、王都に向かって幌馬車での移動という形になる。そこは肝に命じておいてくれ」

「カズマは、少しデリカシーを持たないと駄目ですよ?」

「奥方様、気を使って頂き有難き幸せ」

「ううん。リオンちゃんは気にしなくていいから」


 どうやら、リオンとエミリアの蟠りは無いようで安心した。

 旅をしていく上で、仲間内でゴタゴタするのはよろしくないからな。




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