第156話 砂上の戦闘(15)
「――え?」
ダルアの呟きに最初に反応したのは、エミリアで……。
その視線が、俺から後方に集団でいたダルア達に向けられたと同時に大きく見開かれた。
「――だ、ダルア……きし……だん……長!?」
掠れた声で――、震える声で――、口にした言葉は、とても小さな声であったが、ステータスが強化されている俺にはハッキリと聞くことが出来た。
「エミリア?」
「え……えっと……。あの方達は?」
「ああ、ダルアと言う。エイラハブの街で、衛兵達と揉めていた所を仲裁して連れてきた」
「そうなのですか……」
「姫様!」
ダルアが、俺の近くまで来ると膝をつきエミリアを見上げるように顔を上げながら声を張り上げる。
どうやら、エミリアの言動とダルアの様子から見て、どうやらエミリアは何処かの姫君らしいが……。
――いや、そう考えると、この町に関して何かあるような素振りを見せていた事に関しても合点がいく。
商業ギルドと何か問題があったのなら――、それが記憶的にトラウマがある事なら、エミリアが何かしら考えていた事も納得できる。
「えっと……」
「このダルアをお忘れですか!」
「その……、どなたでしょうか?」
「まさか! 記憶が!? きさまっ!」
俺には到底勝てない事は理解しているはずなのに、何が起きたのか理解できずに逆上して俺の胸倉を掴んでくるダルア。
「待て、少し落ち着け」
「だが!」
「エミリア、お前も何か知っているのなら事情を説明してくれ」
「私は何も知らないです……」
彼女は、俺から数歩離れると、自らの両肩を両手で抱きしめながら俺に答えてくる。
その指先は震えていた。
どうやら記憶を失ったという感じには見えないが、何か事情があるというのは、流石に鈍感な俺でも分かる。
「そうか」
「姫様!」
「ダルア」
「何だ! 貴様は! 姫様とどういう関係なのだ!」
ダルアは、目の前の事実が納得できないのか苛立ちを募らせた言葉を俺に叩きつけてくる。だが、俺としては「どういう関係もなにも、エミリアは俺の妻なのだが――」と、言う説明は、この場を混乱させるだけと思い口を閉ざす。
「私はエミリア。カズマの妻です!」
そんな俺の配慮を打ち砕くかのようにエミリアが横から事実をダルアへと通告する。
俺は思わず溜息をつくが、エミリアの言葉にダルアや獣人達が呆然と立ち尽くすのを見て、心に決める。
「リオン」
「はっ。マスター」
「とりあえず、ここから撤退だ」
「はっ!」
俺は、もう面倒くさくなり「え?」と呟くエミリアを抱きかかえると荷馬車の中へと颯爽と入る。
それと同時に、荷馬車は凄まじい加速力と共に町から離れていく。
そう――、獣人達が現状を把握するまえに。
一瞬で、小さくなっていくエイラハブの街。
それと、米粒のように小さくなっていくダルア達獣人達。
「はぁー。一体、どういうことだ?」
俺は、横に座らせたエミリアの方へと視線を向けた。
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