第155話 砂上の戦闘(14)

「な、なんだ……? この小娘は――!?」


 通りに兵士達のざわめきが広がっていくが――。

リオンは、長さ3メートルを超える巨大なハンマーを片手で一回転、頭上で回転させると、周りの兵士達に視線を向ける事なく俺の方へと向き直ってくる。


「リオン、待っているように言っておいたはずだが?」

「マスター。奥方様が、心配しておったので、奥方様の命を受けてマスターを迎えにきた」

「エミリアが?」

「うむ」


 普段のエミリアなら、心配することはすれ俺からの指示を破るような事はない。

 やはり、エイラハブの街について何か思うような所があったのだろう。

 気にはなっていたが、やはりキチンと聞いておくべきだったな。


「――き、貴様の仲間か!」


 先ほどまで沈黙を守っていたマシューが俺に向かって怒鳴りつけてくる。


「お前達に答える義務も必要性も感じないな。商業ギルドに口を出せないなら、お前達の利用価値はゼロだからな。媚びを売る必要もないしな」


 俺の言葉に獣人たちが媚を売った場面を一度も見た事がないぞ? と、呟いているが、そこはスルーしておく。


「貴様とは、マスターのことを指しているのか?」


 ただリオンだけは、マシューの言葉を見咎めたようで視線をマシューへと向ける。

 それだけで、マシューは体中を震わせると同時に足腰に力が入らなくなったようで崩れ落ち、さらには失禁までしていた。


「やれやれ。その程度の力量で、妾のマスターを侮蔑するような言葉を吐くとは万死に値するぞ? 人間!」


 巨大な槌を右手1本で振り回しながら、マシューへと近づいていくリオン。

 

「おい、リオン」

「マスター?」

「余計なことはするな。それと、殺気を治めておけ。お前のレベルだと睨まれただけで大抵の人間は、息をする事もできない程の重圧を感じるからな」


 俺は周囲に視線を向けながらリオンへ注意する。

 すでに四大竜の一匹であるリオンの殺気に当てられたのだろう。

 俺達を囲んでいた兵士達の9割以上が泡を吹いて倒れ気絶していた。

 

「了解した。マスター」

「分かったのならいい」

「あ、あんたは一体……。ま、まさか……」

「なるほどのう。獣人には、妾の殺気から何かを感じとることが出来たのかのう?」

「――ッ!?」


 ダルアが目を見開くと同時に口を閉じた。

 それ以上は、口には出すな! と、言うことをダルアは直感から理解したのかも知れない。


「まぁ、あれだ。とっととズラかるぞ」

「了解した。マスター」

「ダルア。お前の仲間達も一緒に連れてこない。いまの状況だと兵士団とゴタゴタになるのは目に見えているからな」

「わ、わかった……」


 ダルアは何度も頭を前後に振り了承すると共に歩き出した俺とリオンの後を付いてくる。

 幸い、町は戒厳令状態が解かれていない事もあり、何の障害もなく町から出ることが出来た。


「カズマ! お帰りなさい! 無事でしたか?」


 荷馬車に到着したところで、俺を戻ってくるのを待っていたエミリアは荷馬車から出てくると抱きついてくる。


「ああ、大丈夫だ」


 俺はエミリアを力強く抱きしめる。

 そこで――、「ひ、ひめ……姫様?」と後ろから――、ダルアがエミリアを呆然と見ながら、言葉を紡いでいた。






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