第154話 砂上の戦闘(13)

「まったく……」


 思わず恨み節が口から零れ落ちる。

 それと共に、俺は椅子から立ち上がり、出口へと向かう。

 その際に、ダルアの肩に手を置き一緒に退出する旨を意図的に伝える。

 差別をするような兵士団が居る場所に獣人を置いておけばゴタゴタになるのは目に見えているからだ。

 ダルアは納得をしている様子はなかったが、渋々と言った表情で俺のあとを付いてくる。


「貴様! どこにいく!?」


 背後からマシューが声をかけてくる。


「話が進まないからな。コレ以上、この場所にいても意味はないだろう?」


 俺はマシューに言葉を返しつつ扉を閉める。

 そして、そのまま兵士の姿が見える通路を歩き、建物の外へと出てから溜息をつく。


「なあ、本当に良かったのか?」

「ん? 何がだ?」

「――いや……、アンタが冒険者の中でも最上級クラスのSランク冒険者で実力者だというのは分かったが……、獣人の味方をしてよかったのか? と、思ってな……」

「ああ、そういうことか」


 俺は相槌を打ちながらダルアの方を見る。

 獣人の表情というのは判断がつかないが、声色から俺の立場を心配してきているのは分かる。


「気にする事はない。そもそも、話を聞いた感じでは人間側に非があるのは明らかだからな。――それなら、俺が味方するのは当然だ」


 まぁ、エミリアも広い広義から言えば獣人だし、この世界に来てから俺を救ってくれたのも獣人だ。

 人間よりもずっと好感度が高い。


「そうなのか……。あんた変っているな……」

「よく言われる。とりあえず、どうするか……」


 冒険者ギルド経由で商業ギルドに話をつけてもらうのもありかも知れないが、それだとテンポが遅れるか?

 だが……、商業ギルドに直接向かい武力で相手から情報を仕入れるのも悪手ではあるな。

 とくに冒険者の資格を剥奪される事は魔王を倒すまでは無いと思うが、それでもエミリアや獣人の立場を思うなら冒険者ギルドを介した方がいいか。


「ダルア」

「なんだ?」

「俺の仲間と合流してから冒険者ギルドに向かおうと思うが、それで問題はないか?」

「あ、ああ……。それより、やっぱり……あんた一人で活動してきた冒険者ではなかったんだな」

「まぁな」


 どこをどう思ってダルアは、俺がソロの冒険者だとは思っていなかったのかは知らないが、まぁ、その辺は別にいいか。

1人、自問自答している間に、「全員、それでいいな?」とダルアが他の獣人に確認を取り了承を得ていた。

 すぐに俺を先頭に、エミリアやリオンが待機している町の方へと向かおうとするが、兵士達が取り囲んでくる。


「はぁ……、これは何の真似だ? マシュー……そして、ベルガル?」

「すまないな。町の中で問題を起こした獣人を何のお咎めも無しに野放しするような真似をしたらエイラハブの兵士団の沽券に関わるのでな」

「なるほど……」

「なんだと! 元々は、貴様ら兵士団が! 商業ギルドの話を真に受けただろうが!」


 一理あると納得した俺とは対称的にダルアが叫ぶ。


「だから大人しく捕まったフリでもしてはくれないか?」

「……」

 

 ベルガルが、申し訳なさそうに提案してくる。

 ただマシューと言えば無言のまま。

 何を考えているのか分からないが……。


「だが! 断る! 非は、お前ら兵士団にある」

「それは此処で論じるものではない」

「あくまでも体裁に拘るということか」


 まったく呆れる。

 人間が獣人の言い分を聞く訳にはいかない。

 そんな事をすれば住民からの信用と信頼を裏切ってしまうという事なのだろう。

 

「すまんな」

「これだから人間は……」


 グルルと威嚇をしながら獣人が戦闘態勢に入る。

 それと同時に俺達を捕縛しようと周囲を囲んでいた兵士達が一斉に腰の得物に手をかけるが――、それと同時に――、俺と兵士の間に唐突に爆発が起きる。


「なんだ!?」

「一体何が!?」


 次々と、何が起きたのか分からない兵士と獣人たちの声が上がっていくが――、爆発は爆発でもアクアボムという水を主体とした爆発魔法。

 周囲に、圧縮された水が撒き散らされ砂塵舞う砂漠の街エイラハブの街中に降り注ぐ。


「マスター、何を人族などと揉めているのじゃ?」


 水の爆風が周囲に撒き散らされたあと、中心部から姿を現したのはリオンであった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る