第153話 砂上の戦闘(12)

「何?」


 俺の言葉が気に喰わなかったのか、マシューが俺を睨んでくる。


「そもそも、お前達はワーウルフ達を殺せ! と、言っていただろう? まず、そのへんはどうなんだ?」


 突っ込みたい所は多々あるが、まずは兵士団長というのを問い詰めた方がいいだろう。

 まぁ、そのへんは部下を会社でも部下を持ち会議でプレゼンもしてきた事のある経験が生かせるからな。


「それは言葉の……」

「一度でも命令した言葉――、とくに人の命を左右するような言葉の取り消しは後では出来ないという事くらいは立派な貴族様なら理解はしているはずだと俺は思っているんだが? その辺はどうなんだ?」

「――!」


 とうとう俺に殺意篭った視線を向けてくるマシュー。

 

「ベルガル。お前も、団長補佐だと聞いていたが、こういう奴の暴走を止めるのが役目なんじゃないのか? 魔王軍と戦っている状況下で、町中で問題を起こすのは言語道断だろうに」

「……団長」

「こ、この私に――。この私の決断が……この私の決断が間違っていると認めろ……というつもりか……ベルガル……」

「はい」

「――クッ……」


 唇を強く噛みしめるマシューは、このくらいで良いとして……。


「ダルア」

「――な、なんだ?」

「お前達が情報を得た商人だが、本当の情報なのか?」

「ああ、間違いない。やつらの前には仲間は姿を見せずに会話だけを聞いた。だから――」

「つまり、商人は、近くにワーウルフの居る事を感知していない限り芝居をするのは不自然というわけか……」

「ああ、そうなる」

「ふむ……」


 唇に手を当てながら俺は思考する。

 ワーウルフの話を聞いている限り、エイラハブの商人が関わっている可能性が高そうだが、日本と違い確固たる証拠がない以上、商人を尋問して吐かせるしか方法がないし、その結果、間違いだと時間も掛かるし、後々に面倒になりかねない。


「きさま! カズマと言ったな!」


 考えていた所で、俺の名前を叫んでくるマシュー。


「ああ、そうだが?」

「どうして、そこまでワーウルフに肩入れをする!」

「どうしても何も、お前には関係の無い事だろう?」


 一言で切り捨てておく。


「ベルガル。エイラハブの商人ギルドと話を付ける事は可能なのか?」

「Sランク冒険者が望むのであれば、冒険者ギルドから話を通す事は可能なのではないのか?」

「つまり、兵団からは話をつけることは――」

「何か諍いが起きれば兵士が介入する事も可能だが、獣人の言い分だけを聞いて商人ギルドに介入することはできない」

「それは、獣人が差別対象だからか?」


 俺の質問に困った素振りを見せるベルガル。

 つまり、獣人の意見を取り上げるという事は人間にとって立場的に優位性を保っていないといけない観点から難しいということか?

 厄介だな。


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