第152話 砂上の戦闘(11)
手入れの行き届いていない埃だらけの通路を歩き、通路の突き当りにある木製の扉。
何の細工もされていない武骨なソレは、ある意味では廃屋を利用した駐屯地の象徴とも言えるモノに感じる。
ベルガルは、「ここだ」と俺達に目的の場所へ到着した所を告げると扉を数度ノックする。
すると扉の向こう側――、室内から「入れ」という不機嫌極まりないマシューという男の声が聞こえてきた。
俺はベルガルに案内されるように蝋燭の灯りに照らされた室内に通される。
幸い、室内は掃除がされており埃で煙たいということはない。
「団長連れてきました」
「ご苦労」
端的に、ベルガルからの報告を受けたマシューは、俺に椅子に座るように指で指示してくる。
もちろん俺は、盛大に溜息をつきながら椅子に座り足を組む。
「――貴様っ! 一応、この私は、ブラモンド伯爵家の――」
「能書きはいい。それより、姫君というのは、どういう意味なのか教えてもらえないか?」
「――ッ」
アルガルド・オンラインでは、貴族というのは家を大事にするという貴族らしい古風な設定が存在している。
そのために、戦の前などでは家名を名乗ることは大事な儀式と言うことになっており、俺が途中でマシューの言葉を遮ったことは、相手に苛立ちを募らせる結果になったと思うが……。
――まぁ、俺には関係ないからな。
「姫君なぞ知らん!」
「ふむ」
「そんな訳がない! 我らの姫君は、このエイラハブの奴隷商に売られたと、商隊の人間から漏らしていたぞ!」
横から口を挟んでくるワーウルフのダルアに俺は視線を向ける。
「商隊? それは商人が集まって行商を行う者達のことか?」
「ああ。そいつらが噂をしていたのを――、姫様を探していた時に偶然にも我らの部族の者が聞いたのだ!」
「なるほど……。――で、エイラハブの街に来て暴れたってことか?」
「最初は、暴れるつもりはなかった。はじめは商業ギルドで、姫様を売買した事が本当かどうか聞くはずだったんだ。それなのに、突然兵士達が襲ってきたから返り討ちにしたんだ」
「出鱈目だ! お前達が、あらぬ疑いをかけてきたから商業ギルドマスターが、兵団へ通報しにきたのだ! 暴れている獣人を何とかしてくれと!」
「俺達は、そんな事はしていない! 先に手を出してきたは、そっちが先だ!」
「やれやれ。話しにならない。これだから獣人は――」
ダルアの言葉に、マシューという男は口角を釣りあげると馬鹿にしたような口調で呟く。
「とりあえずだ。私は、姫君という者には心当たりがないし商業ギルドも知らない。コレ以上、へんな疑いをしてくるのなら実力で排除させてもらう」
「やれやれ、まったく話にならないな」
俺は、マシューとダルアの話を聞きながら溜息をつく。
どちらが本当の事を話しているのかは知らないが、少なくともダルアの方が話に整合性がある。
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