第151話 砂上の戦闘(10)

「はぁー。団長が獣人とのいざこざを起こしていたのを見ていただろう?」


 そこまで言い俺をジッと見てくるベルガル。

 つまり、俺に配慮して欲しいということだ。

 獣人を駐屯地まで連れていくという俺の提案に関して――。


「知らんな」


 だが、俺が配慮する必要性なんて一切ないし、そもそも俺が知りたいのは姫君というワードだ。

 ならば、獣人を連れていかないという選択肢はない。

 

「お前、空気が読めないと言われたことがないか?」

「そんな事は何時もの事だな」


 胸を張り答えておく。

 開き直ることで、相手が折れる可能性は非常に高いからだ。


「……仕方ない。付いてこい」


 ベルガルは折れ、俺に付いてくるように指示を出してくる。

 もちろん、俺は頷き「いくぞ」と、獣人に声をかけて歩き出す。


「――な、なあ」

「ん?」

「あんた、人間だよな?」

「そうだが?」


 俺は歩きながら、獣人の言葉に答える。


「どうして、俺達を助けるような真似をするんだ? あんたの立場が危うくなるのは、俺達から見ても分かるんだが……」

「決まっているだろう?」


 俺は溜息をつきながら言葉を紡ぐ。


「そもそも、今回の件に関しては、あんたらに利があると俺は思ったから話をつけるだけだ。それに姫君が攫われたような事を、お前らも言っていたからな」

「……そうか」


 黒い毛並みの――、俺に話しかけてきた身長が2メートル近い狼の顔をした狼人間と言った方が分かりやすいか? その見た目をした男が頷く。


「俺の名前はダルアと言う。あんたが味方かどうかは分からないが、仲間の治癒をしてくれた事は感謝したい」

「そうか」


 俺は、ダルアに言葉を返し歩く。

 兵士達や冒険者の中を歩き続け、そして人通りが減ってきたところで、大きな通りに出る。


「あそこが、エイラハブの兵士達が駐屯している場所になる」

「なるほど……」


 ベルガルが指差した先には、石を切り出して作られた2階建ての建物が見えた。

 高さとしては10メートルほどだろう。

 ただし、横幅は、30メートルほどはある。

 2階建てのコンビニくらいの大きさだろう。


「駐屯地と聞いていたが、外壁などがないな? もしかして、元々は、どこかの商家が使っていた建物を間借りしているのか?」

「……ここで話す内容ではない」

「そうか」


 まぁ、人通りが少ないと言っても、それは冒険者の人影が少ないだけで、獣人を監視する為だろうか? 兵士は数十人後ろから付いてきているからな。

 何かあれば、すぐに獣人に対して対策を取るのだろう。

 ベルガルの案内通り駐屯地前に到着した所で、両開きの木製の門で待機していた兵士達が、扉を開ける。

 

「こっちだ。付いてきてくれ」


 そう告げてくるベルガルの案内どおり建物の中に入るが、建物の中に置かれているモノは、樽に入った水や干し肉やパンを固く焼いたモノ、そして武器や防具と言ったものだ。

 中には杖なども置かれている事から魔術師が居ることが推察できるが――、それ以外のモノが一切置かれていない。

 まるで廃屋を利用したと言った感じだ。 





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