第150話 砂上の戦闘(9)

「突然、現れて何を言ったのかと思えば……」


 俺のSランク冒険者という肩書を聞いても、動揺の表情を見せてくるが否定しようとしてくるマシューという男。

 大勢の部下に命令を下していたというよりも、総責任者と言った手前、簡単に第三者である俺と交渉するのは謀れるのかも知れないな。


「なら、俺と戦うか? 魔王軍と戦っている戦況下で悪戯に兵を失うのは愚かな決断としか思わないが?」

「……分かった。だが――」

「了解している」


 俺は、上空に浮かべていた巨大な炎の玉を消去する。

 それだけで周囲をチリチリと焼いていた膨大な熱量は消え去る。


「では、話を聞かせてもらおうか?」

「待て! その前に、その獣人たちを拘束――」

「させる訳がないだろう? 事情が分からないのに、止めに入った俺が許可をするとでも本気で思っているのか?」

「――くっ」


 苦虫を潰したような表情を見せるマシューという男に、俺は溜息をつく。

 それと同時に周囲を見渡す。

 システム上、集まっている人間の数は1227人。

 かなりの大人数だが、全員が兵士と言った感じではないだろう。

 装備が統一されていない連中も7割近くいたからな。

 そうなると、大半は冒険者と言ったところか。


「団長、ここは冒険者達の目もありますから、一度、駐屯地での対話をした方がいいと思いますが」

「そのくらいは分かっている!」


 白髪が混じった男が近づき、マシューという男にそっと提言すると、忌々しそうにマシューという男は苛立ちを募らせた言葉を吐き捨てると、俺の前から去っていく。

 

「すまなかったな。私はベルガルと言う。エイラハブの兵士団長の補佐役だ」

「カズマだ。城塞都市デリアで冒険者をしている」

「なるほど……、たしかに……」


 一応、俺は冒険者ギルドカードを男に見せ話を進める。

 それにしてもSランク冒険者カードを持っていて良かったというか……、Fランク冒険者のままだったら色々と聞かれそうだ。


「それにしても、ずいぶんと素直に俺の意見を聞くんだな?」

「素手で得物を砕き、かなり上級の魔法も使いこなすのだから当然だろう? それに、魔王軍が跋扈しているリーン王国内で、一人で旅をする事が出来て五体満足な人間なぞ数える程しかいない」

「なるほどな」


 俺のレベルとスキル構成、そして装備からしたら、そこまでは旅では驚異的なモノは感じないが実際に一般人からしたらそうなのかも知れないな。

 とりあえず獣人の件もあるから、俺一人で旅をしてきたと、ここは勘違いさせておいた方がいいか。


「――お、おい」


 俺とベルガルが話をしていると、後ろから声をかけられる。


「ああ、すまないな」


 俺は振り返りワーウルフ、つまり犬の獣人の男へと視線を向ける。

 ワーウルフ達は、ひと塊になっており臨戦態勢を解いてはいないもの、殺気などは感じられなくなっていた。


「あんたは人族なのか?」

「ああ、そうだな」

「なら、どうして俺達を助けた?」

「色々ある。一番の理由は、現在は魔王軍と人類は戦っているという点だ。余計な揉め事は戦力の分散と低下に繋がる」

「……」


 俺の答えに無言になる獣人。


「それよりもいいか? すぐに駐屯地で話をしたいと思っているのだが――」

「こいつらも連れて行っていいか?」


 俺は獣人の見ながら、ベルガルに問いかけた。

 





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