第34話 港町ケイン防衛戦(12)
夜になり――、「それじゃ、カズマさん。おやすみなさい」と、言い残し、隣のベッドで就寝してしまうエミリア。
もちろん、俺は別に一緒に寝てエミリアの銀色で艶やかな狐耳とか、ふさふさの尻尾を触りたいとか、そんな邪な心は全くない訳だが、何だかやりきれないアンニュイな気持ち。
「俺も寝よ」
とりあえず、人生40年を過ごしている俺は気持ちを切り替えて横になった。
――翌朝。
冒険者ギルド前。
そこには大勢の人が集まっていた。
点呼を取っていることから、町を防衛する為の自警団のグループ分けをしているで……。
「すごい数ですね」
老若男女問わず集まっている数は200人近い。
誰しもが弓や短剣、長剣などを携えて冒険者ギルド前で説明を受けているが、一部――、冒険者ギルドの壁に背中を預けて俯いている冒険者がいる。
「くそっ! 騙された!」
「俺もだぜ!」
「もう、ゴールしてもいいよね?」
「なんでだよ! 頑張ったんですよ!」
思い思いに地面を叩いて何かを語っている冒険者達を見ると御愁傷様としか言いようがない。
そもそも、冒険者はあらゆる権利を冒険者ギルドが保証しているから、家も借りられる訳で、冒険者ギルドに登録している限り、招集に応じるのは義務だ。
ただ、恨み節を言いたいのは理解できる。
まぁ、理解は出来るが、それだけだ。
「何だが、いつも見かける冒険者の人達、落ち込んでいますね」
「まぁ、酒を飲んで寝ていてもあんな感じだからな。細かい事を気にする必要ないな」
「そうですね……」
まぁ、悪い奴らではないんだが、根がてきとーな奴らだからな。
時々、理不尽な事も巻き込まれるのは致し方ない。
「ソフィア」
「――あ、カズマさん! 丁度いいところに! カズマさんにお願いがあるんですけど……」
「お願い? ソフィアのお願いは嫌な予感しかしないんだが?」
「そんな事を言わないでください。カズマさんには、遊撃部隊を率いてほしいんです」
「それは町の外で戦えってことか?」
俺の質問にソフィアは、真剣な表情でコクリと頷く。
まったく――、そんなのは一番危険な役回りだろうに。
「お断りだな」
「――え?」
「そもそも、俺は単独の方が普段から動きやすいから、下手な連携は却って戦闘に支障がでかねない。それなら一人で動いて戦った方がいい」
まぁ、実際のところ範囲魔法を使って敵を殲滅する時に仲間に攻撃が当たったら困るからな。
ゲームとは違い、味方にはダメージが通らないというご都合主義はないだろうし。
それなら最初から一人で戦っていた方が気が楽だ。
「……分かりました。カズマさんは、一人で単独遊撃ということでお願いします」
「了解した。それと、今から偵察に行ってくる。間引きした魔物や獲物は、あとで換金してくれ」
「はい」
ソフィアから言質を取ったあとは、エミリアと共に門前へ。
「外は危険みたいだから気をつけろよ」
「ああ、分かっている」
すでに顔なじみとなった門兵と言葉を交わすと、町の外へと足を踏み出した。
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