第33話 港町ケイン防衛戦(11)

「いらっしゃい」


 防具などを専門に扱う店に来たところで、店の店主であろう40歳くらいのおばさんが話かけてきた。


「何かお探し?」

「エミリアの防具を見繕ってほしい。予算は金貨15枚で」

「――え? カズマさんの方が防具を揃えた方がいいのでは?」

「いや、俺は大丈夫だから」

「カズマさん……」

「ちょっと! 目の前で、甘い雰囲気出されても困るんだけど! 他の買い物客にも迷惑だからさ!」


 店の規模は平屋建て。

 床面積は一般的なコンビニ程度。

 

「それじゃ、ほら! エミリア」

「分かりました」


 不満そうなエミリアを店主に任せて俺は店の中を物色することにする。

 俺の場合は、ステータスを最大まで強化しているので、エミリアほど防具は必要ない。

 ――と、言うか魔法を覚える為に資産の殆どを取られたので、お金がない。


「本当は、冒険者としては稼ぎの折半が妥当だからな」


 今回、俺が魔法を覚えていなければ、エミリアには金貨350枚ほど渡していた計算だ。

 それを使ってしまったのでエミリアの防具を最優先に新調するのは当然とも言える。


「とりあえず動きやすい厚手の服でも買うか」


 ここの世界は基本的に布の塊を購入して寸法を測り作ってもらうという形が一般的なので、既製品はほとんどない。

 それは防具にも言える。

 多少、融通が利くように作られた金属が使われている防具は、微調整を店側がして呉れる感じになるが――。


「やっぱ、高いよな……」


 オーガーなどの皮を使ったインナーですら金貨10枚近くしている。

 魔物の素材は基本的に防具や武器に使われる事が多いが、加工にかなりの手間暇がかかるらしく基本的に金貨5枚以上が相場。


「そうなると……小手か」


 小手なら、攻撃を受け止める役割も出来るだろう。

 さすがに盾は買えない。

 

「――というか両方無理だな」


 金貨5枚で買えるのは麻で編まれた服だけだった。

 とりあえず、俺の防具は我慢しよう。

 まぁ、防具屋というのは男なので何かあるのでは? と、ワクワクしてしまい散策が捗る。


「カズマさん!」

「――ん?」


 振り返る。

 すると、エミリアは銀色の小手とレッグガードを身に付けていた。

 両方とも花柄の意匠が彫られていて、エミリアの銀色の髪と合っている。


「どうですか?」

「すごく良いと思うぞ」

「本当です?」

「ああ」

「あんたら、さっき言ったでしょうに……」


 店主の女将さんが呆れたように呟くが、そんなことは関係ない。

 似合っているものは似合っているのだ。

 そのあとは結局は予算オーバーだったので、俺の手持ちの残り金貨を足して支払いを済ませてから、夕食を食べ宿に戻った。






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