第32話 港町ケイン防衛戦(10)

 まったく酷い奴だ。

 言葉巧みに冒険者たちを誘導するとは――。


「――で、カズマさんは、用件は済んだのですか?」

「まぁな。あとは攻めてきてからのお楽しみってやつだ」

「それは力強いですね」

「そういえば、エミリアは?」


 冒険者ギルドの中を見渡してもエミリアの姿は見えない。

 俺に気がつけば話しかけてくるはずだが……。


「エミリアさんには、ストーンゴーレムの欠片の整理をお願いしています。何分、モンスターが襲来する可能性がありますと、各方面への手配を含めて人手が足りませんので」

「なるほど……。――で、俺――、ずっと思っていたんだが、ここって冒険者ギルドマスターを見たことないんだが?」

「ギルドマスターは、定例会議で隣国のギランへと出向いています」

「なるほど……。その次は?」

「副ギルドマスターは、私が兼任しています」

「なるほ――、ソフィアが?」

「はい。普段は問題が何も起こらないギルドですから、受付で一番長い私に役目が回ってきました」

「そうか……。だから、さっき演説したんだな」

「そういうことです」


 まぁ、さっきの冒険者たちに対する対応の仕方は、すごく手慣れていて正確だった。

 冒険者の性格を理解していないと、あそこまで適切な対処はできないだろう。


「それでは、私はコレで――」

「おう。がんばれよ」


 ソフィアは、書類が山のように積まれている席に座ると、仕事を始めた。

 どうやら、俺が仕事の出来る奴だと思った直感は間違ってはいなかったらしい。


「ただいま戻りました。あれ? カズマさん、どうかしましたか?」

「――いや、何でもない」


 ソフィアの仕事ぶりに少し見とれていた俺は、エミリアの声で我に返り返事する。


「エミリアの方は仕事は終わったのか?」

「はい。力仕事でしたけど簡単でした」

「そっか。そう言えば獣人は力があるって誰か言っていたけど本当なのか?」


 少し気になっていた事を聞くが――、「人間の3倍程度の力はあります」と、答えが返ってきた。

 俺達は用件も済んだので冒険者ギルドの建物から出る。

 すると、少し年配の方を連れてくる若い冒険者の姿がチラホラ見えた。

 おそらく、ソフィアの術中に嵌った奴らだろう。

 ソフィアは、避難する許可を考えてもいいと言ったが許可するとは一言も言っていない。

 あとで、きっと頭を抱えるに違いない。


「カズマさん?」

「とりあえず夕食でも食べて宿に戻るか」

「はい! 明日も、頑張って稼ぎましょう」

「そうだな」


 魔物が大軍で襲ってくるのなら、それなりの装備を揃えておきたいからな。

 さすがに、一般人が着るような服はまずいだろう。

 巫女服が民族衣装のエミリアも、そのへんは同じだ。

 何かしらの防具は用意した方がいい




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