第139話 城塞都市デリアⅡ(10)
通りを歩くこと10分弱。
城塞都市デリアは、復興中ということもあり建物の修繕などで、人が通りにごった返している。
しかも、お昼を過ぎたところもあり、買い物をする主婦たちの姿も大勢見られた。
そんな雑踏の中で――、視線の先に、俺達が泊っている『銀の宿泊亭』の看板が見えてきた。
人混みの中をかき分けるようにして歩き、宿に近づくと宿の入り口には既に幌馬車が停まっていた。
「カズマ、お帰りなさい!」
「ああ、ただいま」
まず話かけてきたのは宿屋の女将であるセリアンと話をしていたエミリア。
「よく俺が戻ってきたって分かったな」
「匂いくらいは分かりますから」
「そうなのか?」
俺は、周りを見渡すが視界に入るだけで数十人の人間が行き来をしていて、匂いだけでは判断がつくか? と、問われれば人間の俺には無理だと断定できる。
「エミリアはすごいな」
「はい!」
「それより、すでに幌馬車を大通りに出しているという事は、すぐにでも出立できる状態にしてあるって事か?」
「はい。コレ以上、リオンちゃんがたくさん食べてしまうと仕事をしなくてはいけなくなりますので……」
「それは一理あるな」
つまり、外で狩りをしてリオンの食糧を確保しようという考えをエミリアも持っているという事か。
「――で、リオンは?」
「マスター。戻られましたか」
そう話に割って入ってきたのは、宿の入り口から出てきたリオン。
リオンは、青い生地で作られたワンピースを着ており、袖口やスカートの縁にはフリルがたくさんついている。
「……リオン。その服は?」
「はっ! 人間からの献上品でございます」
「あの、セリアンさん。このワンピースは?」
俺と、エミリアの会話を横で聞いていたセリアンに問いかけることにする。
「うちの娘が――、ミエルが誕生祭の時に着ていた服になるの」
「そうですか。――ですが、何故にリオンに?」
「リオンちゃんは、こんなに可愛いのだから、おめかしした方がいいと思うの。――で、うちの娘が昔に着ていたワンピースが丁度だと思ったから着てもらったの」
「ですが、誕生祭と言えば子供の誕生を祝う祭りで着るモノを聞いていましたが……」
少なくとも、アルドガルド・オンラインの世界では誕生祭の際に着る特別なワンピースは、かなりの高額でプレイヤー間で取引されていた。
それはLV10に到達した時に、運営に貰える初心者育成の際のモチベ―ションアップの為の特別な洋服であり、初心者を課金に誘導する為に、ディテールなど細かい部分に力が入れられており品質も高かった。
そのために、かなりの高額という感じであったが……。
「いいのよ。もう娘も着られる年齢ではないし……。箪笥の肥やしになっても仕方ないからね」
「そうですか。それなら、ありがたく頂きます」
相手からの好意を無碍にするのも違うと思い俺は素直に謝辞する。
まぁ、リオンも表情を見る限りでは、満足気なので問題はないだろう。
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